球団買収、ドラフト、CS開幕とプロ野球がメディアを賑わすシーズンになってきた。そのかげでひっそりと球界を去る者もいる。戦力外通告された男たちである。後ろ姿を、ノンフィクション・ライターの神田憲行氏が追った。
* * *
監督でも一流選手でもない彼らの消息はほんの数行の記事にしかならない。しかしそこには人生の一大転機が込められている。
戦力外通告になっても現役続行を希望する者は、オフに二回ある「トライアウト」という合同練習に参加するチャンスがある。クビになった選手同士の対戦を各球団編成部の「中途採用担当者」たちが観戦、自分のチームに必要となれば引っ張る。
中日にドラフト一位で入団して戦力外通告を受けた森岡良介選手も、トライアウトですぐヤクルトに引っ張られた。現在は一軍で活躍している。
「でもトライアウトなんて、アテがないと、受けてもほとんど意味が無いんですよ」と、今年戦力外通告になった選手がため息混じりに語った。
彼が所属していた球団では戦力外通告する予定の選手を夏頃にリストアップして、他の友好関係のある球団編成部に耳打ちするのだという。もし相手が興味があれば「一度二軍戦にでも出してよ」といってくる。
そこで相手が感触を得れば、戦力外通告を受けたときに自分の球団から、「ちなみに××がお前に興味あるそうだから、もし現役を続けたいならトライアウト受けてみないか」といわれるそうだ。
つまりトライアウトはクビになった選手同士の「お披露目」ではなく、いつの間にか「最終テスト」になっているのだ。私が話を聞いた選手は、クビを通告した球団幹部から「今のところもどこからも引き合いは来ていない」と教えられたそうだ。
戦力外通告を受ける選手は一度に球団事務所に集められ、ひとりずつ部屋に呼ばれて球団幹部から通告を受ける。理由は「若手が伸びてきたので譲って欲しい」という判で押したように同じだという。
「クビになった選手みんなでそのあと監督やコーチのところに『お世話になりました』って挨拶に回ったんですけれど、声を掛けてくれる人もいれば知らんぷりする人もいて……ほんと、こういうときって人の本性わかりますね」
現役を続けられない場合、第二の人生を歩むことになる。バッティング投手になれば年俸500万円ちょっと、しかも1年契約だが、スタッフとして球団に残れればいいほうだという。
「入団したときにスカウトさんから『将来は球団に残れるように手配したから』と言われたのですが、しょせん口約束なんで消えてしまいました(苦笑)。これからどうするか、年内には目処を付けないと」
華やかなプロ野球の喧噪が丸めた背中に染みる。