作家・佐藤愛子氏(88)は『これでおしまい』(文藝春秋刊)の刊行をもって「我が老後」シリーズのエッセイをやめるという。米寿にしてたどりついた老いの心境を語る。
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最近は何でも「安全、安全」の世の中になったから、行政でも政治でも、厄介なことにならないように、ならないようにと最初から守りの姿勢に入っていますよね。これでは何かをやってみようという発想が生まれません。
先日も細かいお金が必要になったので、銀行の人に持ってきてもらったんです。そしたら、その場で銀行に電話をかけて、私から「今、お金を受け取りました」ということをその上司に報告しなきゃならないの。去年あたりまでそんなバカなことはなかったんですよ。
振り込め詐欺にまだ騙される人がいますけど、そうやって騙されて、損をして、それで人は学習するんですから。まあ年寄りの場合、いまさら学習しても先は短いといわれればそうかもしれませんが、年寄りでない人たちまで守りに入ってしまうと、人間が伸びないですよね。私みたいに伸び伸び生きてきた人間にとっては、狭苦しい箸箱の中へ入ったようなつまらなさを感じるんですよ。
※週刊ポスト2011年12月2日号