妊娠中から子供にいい影響を与えようと、胎教を心がける親も多いだろうが、実際、胎児にどんな影響があるのだろうか。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)でおなじみの脳科学者・澤口俊之氏が解説する。
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胎教について世間ではさまざまな考え方があるようですが、実は胎教に関する科学的データはほとんどありません。
ヒトの胎児の成長や発達は学術用語で「妊娠中の胎児発達プログラム」とよばれています。つまり胎児は、妊娠初期から出生まで決められたプログラム(段階)にそって発達するというわけです。
そして女性は、このプログラムに対応する形で、母になるための心や体を作っていきます。その途中で、“元気に生まれてきてくれるかしら”とか、“ちゃんと母親になれるかな”などにはじまる「妊娠特異的不安」とよばれる不安感や心配感を抱くようになります。
「妊娠中に不安な状態でいるのはよくない」という話を耳にしますが、実は、多少の不安感は胎児の発達に不可欠なのです。
女性は妊娠するとさまざまな「不安関連ホルモン」が急速に増加することがわかっています。ヒトは不安になると心拍数が上がります。不安系ホルモンが増えると、お母さんの心拍数も上がりますが、同時に胎児の心拍数も上がります。
心拍数が上がると脳機能は向上するため、「不安関連ホルモン」は胎児の脳の発達にとって必要なものといえるわけです。ただし、過度な不安による長時間の心拍数の上昇は、胎児の脳にとってマイナスとなります。
胎児の心拍数は、お母さんの声を聞くことでも上がります。ですが、父親を含む他人の声では心拍数は逆に下がることがわかっています。また、音楽が胎児の脳の発達にプラスに働くといわれている根拠のひとつは、音楽によっても胎児の心拍数は上昇するからです。
胎児が母親の声や音楽を認識できるようになるのは、妊娠30週目ほどの妊娠後期です。胎教についていえば、中には妊娠初期から英語のCDを聞かせる、特殊な音の出る専用グッズをお腹に当てるなどの方法で行うかたもおられるようです。が、私自身は、妊娠後期からの母親の胎児への語りかけと音楽だけで充分だと思っています。
多くの親たちが、わが子を天才に育てたいという願いを持っています。その結果、錯綜する情報に振り回され、胎教や幼児英才教育にお金と時間を注ぎ込みます。ですが、胎教や幼児英才教育と子供の能力の発達に関しては、いまのところ科学的な根拠はありません。むしろ悪影響というデータもあるほどです。
前述したように、特別な胎教などする必要はほとんどありません。何よりも必要なのは、多くの愛を注いであげることなのです。
※女性セブン2011年12月8日号