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太平洋戦争帰還兵「戦友は生きたままハゲタカにつつかれた」

ノンフィクション作家・門田隆将氏が100人を超す元兵士に取材した戦争ノンフィクションの決定版三部作『太平洋戦争最後の証言』。真珠湾攻撃から70年となる12月に上梓された第二部の「陸軍玉砕編」には、壮絶な最前線が再現されている。インド北東部で展開された「インパール作戦」にまつわる帰還兵の声を基に、門田氏がレポートする。(文中敬称略)

* * *
井上誠氏は、大正十年生まれの九十歳の元兵士である。昭和十九年三月に始まったインド北東部インパールを攻略する「インパール作戦」からの生き残りだ。作戦の主力を担った通称・祭兵団で砲兵を務めた。井上氏が振り返る。

「カングラトンビというとこは、ほとんどインパールの町や。大激戦やった。祭だけでやったね。向こうは戦車で、こっちはようけ死んどる。山を降りてきたら、戦車が布陣しててな。それで、また黒いインド兵の後ろに白人のイギリス兵がおるの。インド兵は、うしろからイギリス兵に“行け、行け”と言われて撃ちよる。こっちは補給線が延び切っとったからな。結局、突破できんかったですわ」

インパール防衛に兵員、武器ともに増強しつづける連合軍と、弾薬も食糧も枯渇していた祭兵団。勝負は誰の目にも明らかだった。

糧沫が尽き、そのうえ雨季への突入が日本軍を苦しめた。執拗な連合軍の空爆と砲撃は、水に浸かった塹壕の中に潜む日本兵を苦しめ続けた。マラリアに感染する兵士があとを絶たず、ついに日本軍は、作戦続行が困難となるのである。南方軍がインパール作戦の中止を命令したのは、昭和十九年七月二日のことである。

撤退は惨めなものだった。追撃してくる連合軍から逃げながら、食糧もないまま再びアラカン山脈を越えて退却するのである。

「昼間はジャングルで寝てて晩に歩くんや。敵の攻撃があるからな。哀れなもんですよ。あそこは、ハゲタカが来るねん。こっちが死ぬの待ってる。じっと座ってたら、すぐ食いつきよんねん。結構大きいで。それが、へたっとる奴を探しとんねん。道でへたって追い返す力がなかったらそれで仕舞いですわ。生きたままつつかれます。あいつら顔から食べていくんです」

ハゲタカは人間の“目”からつつき始めるという。

「そうや。目玉をどつきよんねん。顔が出てるから、それから頬をつついてな。生きながら食われるわけや。ものすごい雨の中でもきよる。白骨になっていくっていうのは、ハゲタカに食われてしまうのや」

死体や負傷兵の傷口にはウジが涌いた。ハエが止まったと思うと、そこから必ずウジが出てくるのである。

「食べるもんがあらへんやろ? 元気な奴は、そのウジ虫をとって食うとんねん。わしは食べへんかったけどな。すぐ白骨になるんは、ハゲタカとウジのせいや」

※週刊ポスト2012年1月1・6日号

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