高木道郎氏は1953年生まれ。フリーライターとして釣り雑誌や単行本などの出版に携わり、北海道から沖縄、海外まで釣行している。その高木氏が、「魚の視力」について解説する。
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よく「見える魚は釣れない」などといわれるが、それは魚からも釣り人の姿が見えているからである。釣り人の姿形を認識しているかどうかはともかく、魚は本能的に水面上を動く見慣れないものを警戒する。これは、水鳥に襲われるという恐怖が遺伝子に組み込まれているためらしいのだが、そもそも水中から釣り人の姿は見えるのだろうか。
実際、水中に潜って水面を見上げてみると、意外と広い範囲を見渡すことができて驚く。これは水と空気の屈折率の違いによる。水中からの視線は水面で屈折して広がるため、低い位置まで見えてしまう。「水中を覗き込むな」「磯際では姿勢を低くしろ」「動き回るな」というベテランの小言には科学的根拠があったわけだ。
加えて、両眼が顔の正面に並んでいる人間と違い、魚は頭部の前方左右に飛び出ているため、真後ろを除くほぼ全方位が視野に収まる。昔は魚は近眼で色盲とされていたが、これは間違い。魚は近眼でも色盲でもない。
視力としてはメジナでおよそ0.13、クロダイで0.14程度だが、これはデジカメでいうところの画素数みたいなもの。画像はやや粗いがコントラストはしっかりしていて、高度な形状識別能力を持つ。色の識別能力も認められ、人間の眼は赤、青、緑という3波長に反応するが、魚の眼は人間が知覚できない紫外線を含めた4波長に反応する。
※週刊ポスト2012年4月6日号