国内

トクホコーラ20代担当者が「納得できん」と味に待ったかけた

 コーラなのにトクホ(※特定保健用食品)。誰もがあっと驚く組み合わせの『キリン メッツ コーラ』が飲料業界にセンセーションを巻き起こしている。キルンビバレッジにおける構想2年、開発3年の苦闘の跡とは――。
 
 1年間に新しく発売される清涼飲料はなんと1000にも及ぶ。そのうち3つ生き残れば(俗に『せんみつ』という)御の字という過酷な世界。

 その熾烈な競争をかいくぐり定着したのが「トクホ飲料」で、『ヘルシア緑茶』(花王、2004年)、『黒烏龍茶』(サントリー、2006年)が市場を切り拓いてきた。

 市場ができればスーパーなどでは専用棚が設けられる。飲料メーカー大手のキリンビバレッジでも営業サイドから「我が社でもトクホ商品が欲しい」という要請が商品企画を担うマーケティング部に届くようになっていた。

 そういった要請もあり、2009年には食後の血糖値を抑えるトクホ飲料『午後の紅茶ストレートプラス』を発売した。しかし、マーケティング部の丸岡俊哉氏(現商品担当部長)は、その開発過程でもトクホ=お茶という市場の動向に疑問を感じていた。

「清涼飲料は行楽の途中、運動の後、いわばハレの飲料であり楽しみながら飲むもの。トクホ=お茶は理性的で相性もいいが、順目といえば順目。順目は人の心には響かない。ならば、トクホの炭酸飲料というチャレンジもありではないかと考えたのです」

 炭酸飲料はともすれば「非・健康」とみられがちだ。「健康重視」のイメージが強いトクホとは背反する関係だと誰もが漠然と思っている。だが、ものは考えようである。炭酸でトクホ、いやどうせなら「THE炭酸」であるコーラと組み合わせたら消費者は興味を持ってくれるのではないか?

 ギリギリのところまで味覚を追求し、最終的な味がほぼ決まりかけた、その時、20代後半の味覚担当者が「やはりこの味ではまだ納得できない」と待ったをかけた。

 コーラ好きを自任する担当者は、新しいコーラ飲料の開発にひと際強い思いを抱いていた。丸岡氏はその担当者の思いにかけた。

「マーケティングの目標は最終顧客に『ありがとう、うれしい』といってもらえること。それを実現するためなら社内調整の面倒などどうってことない」

 ほぼ決まりかかっていた味だが、再検討することになった。その結果、どんな味が完成したか――。

 グラスに注がれた「トクホコーラ」を試飲した。取材前には、「クスリっぽいんじゃないの?」という懸念がなかったわけではない。だが、飲み干した瞬間、その不安は吹き飛び、「ああ、普通のコーラですね」という言葉が自然に口に出た。

 商品が完成したのは、2010年。トクホを申請し、認可されるまでにはおおよそ1年半の歳月が必要だ。

 その時点で『メッツコーラ』というネーミングも決まっていた。同社が1979年に生み出した炭酸飲料ブランドである。

 こうして、トクホに認定されたコーラ飲料は市場に船出することになったが、今年4月24日の発売から2日後に目標の年間100万ケースの5割を達成する好調なスタートを切った。

※特定保健用食品/特定の保健の目的が期待できることを表示した食品。効果はヒト試験で科学的に検討され、有効性・安全性は個別商品ごとに国によって審査されている。本年4月の段階で996品目が認可されている

※週刊ポスト2012年5月18日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
水原一平容疑者は現在どこにいるのだろうか(時事通信フォト)
大谷翔平に“口裏合わせ”懇願で水原一平容疑者への同情論は消滅 それでもくすぶるネットの「大谷批判」の根拠
NEWSポストセブン
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
ムキムキボディを披露した藤澤五月(Xより)
《ムキムキ筋肉美に思わぬ誤算》グラビア依頼殺到のロコ・ソラーレ藤澤五月選手「すべてお断り」の決断背景
NEWSポストセブン
(写真/時事通信フォト)
大谷翔平はプライベートな通信記録まで捜査当局に調べられたか 水原一平容疑者の“あまりにも罪深い”裏切り行為
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
有働由美子と膳場貴子
【25年の因縁】有働由美子と膳場貴子“6才差のライバル関係” NHK時代に激しいエース争いを繰り広げた2人の新たなチャレンジ
女性セブン
羽生結弦の勝利の女神が休業
羽生結弦、衣装を手掛けるデザイナーが突然の休業 悪質なファンの心ない言動や無許可の二次創作が原因か
女性セブン
眞子さんと小室氏の今後は(写真は3月、22時を回る頃の2人)
小室圭さん・眞子さん夫妻、新居は“1LDK・40平米”の慎ましさ かつて暮らした秋篠宮邸との激しいギャップ「周囲に相談して決めたとは思えない」の声
女性セブン
いなば食品の社長(時事通信フォト)
いなば食品の入社辞退者が明かした「お詫びの品」はツナ缶 会社は「ボロ家ハラスメント」報道に反論 “給料3万減った”は「事実誤認」 
NEWSポストセブン