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新聞の経済記者 財務省のポチになってエサもらえば出世可能

 7月29日、20万人ともいわれる人々が国会を取り囲み、原発再稼働反対のキャンドルを灯した。これは、国会前には日米安保条約に反対する数十万人の学生デモ隊が押し寄せ、時の岸信介内閣は退陣に追い込まれた1960年を彷彿とさせる。

 外交、霞が関、メディアを知り尽くす孫崎享(まごさき・うける、元外務省国際情報局長)、高橋洋一(元内閣参事官、嘉悦大学教授)、長谷川幸洋(ジャーナリスト)の3氏が、1960年当時といまの政治状況におけるメディアの役割を話し合った。

――60年安保では新聞7社の共同宣言(1960年6月17日、新聞7紙が「その理由のいかんを問わず、暴力を用いて事を運ばんとすることは、断じて許されるべきではない」との共同宣言を発表)がデモを潰した。メディアが国民を向いていないのは今も同じで、「決められる政治」といって野田首相の原発再稼働や消費増税を後押ししている。

高橋:そもそも国民の困ることを何のチェックもないまま決めているのに、「決められる政治」と持ち上げるのはおかしい。選挙で問うてから決めるべきでしょう。原発再稼働も野田政権は当初、事故調査をやって、原子力規制庁を作ってから判断するといっていたのに、何もしないうちに素人である4閣僚で決めた。

長谷川:新聞が一斉に社説で「決められる政治」と書いたのには裏があるんです。「決められない政治からの脱却」というキャッチフレーズが最初に出たのは、今年1月の施政方針演説。各紙の足並みが揃ったのは、財務省が論説懇(論説委員との懇談会)で完璧にレクチャーしたからだと思います。

高橋:論説委員は財務省のポチの典型ですね。私も課長のときに、各紙の論説委員を回ってレクしていたが、同じ情報を流しても記事に濃淡が出る。そうすると上から「レクが不十分だったんじゃないか」と怒られるわけ。それで論説に、「ここが違っている」と注意する。結果的に濃淡さえも全く同じ「財務省のリリース」が紙面に載る。

長谷川:メディアは公正、客観的な報道だとか、真実の追求なんていうけど、役所にすれば情報操作の対象でしかない。

高橋:当たり前じゃない。こっちが流した情報をそのまま書くんだから。

長谷川:私は財政制度等審議会臨時委員という「特上のポチ」だったから(笑い)、財務省の幹部から何度もブリーフを受けた。色々話を聞かされて、「どうお考えになるかは自由です。ただ、私たちはこう考えているので、是非、社説として書いていただけると有り難い」と。その通りに書くと、例えば課長級が持っている財務省の政策を網羅した冊子ももらえるようになる。それがあれば取材しなくても記事が書けるし、定年後の再就職だって相談できるような間柄になる。

 また、財政審議会の委員には各紙の論説委員クラスが数人選ばれるが、その枠に入ると海外視察もある。公務だからパスポートは審議官用の公用旅券で出張手当も付く。私が米国とカナダに行ったときは財務省から主計局の若手が2人同行して、報告書も彼らが書いてくれた。

高橋:私も海外視察の引率をやったことがあるが、10日間くらい一緒にいるから相手のいろんな情報がわかる。そこで弱みを握ってしっかり上司に報告した。論説は大体、そうやって落とされていく。

長谷川:はっきりいって、新聞の経済記者が主計局とケンカして財政の記事を書けるかというと、普通は書けない。逆に、役所のポチになって情報をもらえば、どんどんエサをもらって太っていき、社内で出世もできる。それを断ち切ると記者は生きて行く場所を失う気持ちになる。

高橋:だけど長谷川さんは脱ポチでしょう? 私は脱官僚で、孫崎さんは脱米国。そうした「脱」の動きが様々な場所で起こっている。この流れを吸い上げる中間的な存在が出てくれば、変革の可能性はある。

孫崎:そうした仕組みが固まったのはまさに60年安保の後でした。国民が今回のデモによってその仕組みからの脱却を目指しているとすれば、実に興味深い歴史の巡り合わせですね。

長谷川:問題は政治家が決める決めないではなく、国民に選択肢が示されないこと。かつての官僚は、そもそも日本の外交は対米追従か、自主路線でいくのかといった選択肢を考えていたでしょうが、今や政治家もそれを操る官僚さえもそれを考えようとはしない。本来、選択肢の提示はメディアの役割でもあるけど、役所のポチだからもっと考えていない。日本全体で選択肢がない状態です。だから国民のデモになっている。

 これまでは政党や議員がアジェンダ(政策課題)を設定して国民に示したが、いまは逆に政治に携わっていない一般の人々が脱原発というアジェンダを政治に突きつけている。これは非常に大きな転換です。

※週刊ポスト2012年8月17・24日号

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