ベビーブーマーの余波が続いた1950年代前半。この当時に生まれた方々が、現在定年退職を迎える世代となっている。総務省『日本の統計2012』によれば、現在50代後半~60歳の方々は各年齢において160万~180万人存在する模様であり、団塊の世代ほどではないものの、他の世代と比較すると人数は多いといえる。
さて、その方々だけに該当する話ではないものの、「特にこれから年金を受給する世代において、老齢基礎年金(国民年金)のもらい方について注意点を指摘しておきたい」というのは、ファイナンシャル・プランナーの伊藤亮太氏だ。
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これから支給を受ける世代は、老齢基礎年金に関しては、原則65歳から支給となる。しかしながら、あくまで原則であって、もらおうと思えば60歳から受給することも可能である。これが「繰上げ」という仕組みだ。
繰上げは、1ヵ月単位で行うことができるが、1ヵ月繰り上げることで0.5%減額される。例えば60歳からもらいたい場合には、5年間繰り上げるため、60ヵ月×0.5%=30%分減額、つまり65歳から支給される年金額の70%分しかもらえないことになる。
平成24年度における老齢基礎年金の満額(40年加入した場合)は年間で78万6500円。仮に現在60歳の方が繰上げを行えば30%減になり、年間で約55万円となる。繰上げを行った場合、この減額された年金額が一生続く(毎年物価動向等により若干変動あり)ことになるため、本当に65歳手前からもらうことが望ましいことなのかどうか検討する必要がある。退職後65歳までの生活費を十分まかなえるのであれば、一般的には繰上げはしない方がよいといえる。
■76歳8ヵ月以上生きるのなら繰り上げはしないほうがトク
なお、60歳に繰上げを行った場合と繰上げをせず65歳からもらった場合で比較すると、76歳8ヵ月以上生存すれば、繰上げをしなかった場合の方がもらえる年金額の合計は多くなる。2011年の日本の平均寿命が女性85.90歳、男性79.44歳であることを加味すれば、あくまで確率論になってしまうが、繰上げをしない方がもらえる額は多くなる人の方が多いと想定できる。
■繰り上げをした場合の落とし穴
繰上げされた老齢基礎年金をもらっていた方が、例えば旦那さんが亡くなり遺族厚生年金が支給されるようになったとしよう。この場合において、65歳になるまでは二つの年金を併給してもらうことはできない。通常、遺族厚生年金の方が金額が多くなるため、繰上げた老齢基礎年金は意味をなさなくなる場合がある。しかも、65歳以降になり老齢基礎年金の支給を受けられるようになったとしても、減額された老齢基礎年金しかもらうことができない。
また、一定の条件を満たしている場合で、夫が亡くなった場合、妻が60歳から65歳になるまで寡婦年金が支給される場合があるが、繰上げを行っている場合には、寡婦年金は支給されない。
最も怖いのは、老齢基礎年金を繰上げ後に、病気等により障害者に該当することになったケースである。通常、障害者に該当し、要件をクリアすれば障害基礎年金が支給されるが、残念ながら繰上げを行った後に障害状態となった場合には、一部例外を除いて障害基礎年金を受給することはできなくなる。障害基礎年金1級であれば平成24年度価額で、年間で98万3100円、2級であれば78万6500円となる。一定の要件を備えた子どもがいれば子の加算額もある。しかも障害基礎年金の場合、非課税となる。しかしながら繰上げした老齢基礎年金の場合には、課税対象となる。
こうしたメリットを受けられなくなるおそれがある点を踏まえて、老齢基礎年金の繰上げを行うかどうかは考えたい。落とし穴や平均寿命から受給総額を加味すると、繰上げはできる限り避けたい。仮に生活費に心配があるのであれば、65歳まで働くという選択肢を選んだ方がよいかもしれない。
ファイナンシャル・プランナー 伊藤亮太
http://www.ryota-ito.jp/
<プロフィール>
無駄遣い指摘・お得なマネー情報紹介アドバイザー。経済評論家。年間を通して数多くのマネー相談(家計簿診断、資産運用相談など)を行い、FP資格関連書籍六冊、証券外務員資格関連書籍一冊、金融入門一冊等、執筆も多数。大阪証券取引所、SBI証券、紀陽銀行等の金融機関、大東文化大、立教大学等で資産運用関連、金融業界動向の講義など多角的に活動中。2011年秋学期からは東洋大学経営学部会計ファイナンス学科非常勤講師も務める。