ライフ

元プロ雀士が回顧 阿佐田哲也氏の苦悩とG馬場さんの打ち筋

『週刊ポスト』麻雀大会を振り返る古川凱章氏

 昭和を彩った有名人たちがこぞって参加した『週刊ポスト』の麻雀大会。その全てを間近で見てきたのが、プロの雀士として長く活躍した古川凱章氏(74)である。連載黎明期から雀聖・阿佐田哲也氏をサポートし、連載中期からは観戦記を担当してきた。決して色あせない当時の記憶を、古川氏が語った──。

 * * *
 1000回以上の歴史を持つ「有名人勝ち抜き麻雀大会」に、私は関わり続けてきました。

 そもそも、私をこの仕事に引き込んだのは阿佐田哲也先生でした。当時は先生が小島武夫さんや私と「麻雀新撰組」を立ち上げようとしていた時期で、目白にある先生の自宅に足繁く通っていたんです。

 目白の部屋に行くと、毛布の上に麻雀牌が転がっていて、先生が「ウーン」と頭を抱えている。「なんですかコレ?」と私が聞くと、「『ポスト』の麻雀大会の牌譜で場の流れを再現しているんだ」というんです。

 先生は4人分の牌譜をいちいちめくりながら観戦記を書いていました。「これじゃあ大変だ」ということで、私も手伝うことになったんです。一局ごとに全体の牌の流れをまとめた「整理牌譜」と呼ばれるものをその頃から作るようになり、その役を引き受けたのです。

 その後、阿佐田先生が体調を崩されたこともあり、私が観戦記も担当するようになります。ゲストは時代を代表する豪華な方々ばかりでしたね。

 まず真っ先に思い浮かぶのが、俳優の若山富三郎さんの奇っ怪な打ち筋です。大物手を立て続けに上がり、トップ確定かと思われたところ、万子の複合メンツで「ロン!」と勢いよくやったのですが、実はテンパっていなかった。致命的なチョンボなのですが、当の若山さんはまったくこたえた様子がない。ご本人は何もいいませんでしたが、このときのチョンボは「ワザとだ」と私は確信しています。

 実は、「勝つと来週も出なきゃならんのか?」と若山さんが脇にいるスタッフに尋ねていたのを聞いていたんです(笑い)。稽古に熱心なことで知られる方ですから、本業以外に多くの時間を取られたくなかったんでしょう。だけど、危険牌を捨てて振り込みにいっても当たらない。どうしたらいいか……点数を減らすにはこれしかないということで、とぼけてチョンボというのが真相と私は考えています。

『塀の中の懲りない面々』でお馴染みの作家の安部譲二さんも面白かった。

 対局中に誰かが『あ~っ、マズイ!』と呟いた。その途端、安部さんは両手で十三枚の手牌をサッと持ち上げ、そのままどこかへ逃げようとしたんです。若い頃に培った「条件反射」なんでしょう、警察の手入れと勘違いして、勝手に体が動いたんですね(笑い)。

「勝負強い」と感じるのは、やはりスポーツ界の方ですね。勝負の綾がよくわかっているし、ここぞという勝負所での腹のくくり方が違う。

 特に印象に残っているのは、V9時代の巨人のエースだった城之内邦雄さん。

 この人の麻雀は始まったら一切周りを見ない。食い散らかそうが何をしようが、ただただアガリに向かって前に突き進むんです。手牌が4枚だけになってもおかまいなしです。対局相手は「テンパったな」と思って勝手にオリてしまうんですが、私が城之内さんの後ろに回って見てみると、その手牌4枚はバラバラでした(笑い)。

 そんな打ち方をしていると、たいていは相手の当たり牌を持ってきて捕まるものですが、あの人の場合は振り込まない。あんな不思議な人は滅多にいません。それで10週勝ち抜くんですからね。

 同じスポーツ選手でも、城之内さんとは対照的な人がいました。あるとき、会場に行くと玄関に「ボートか!」と思うような大きな靴が揃えてある。30cmじゃきかない。そう、「十六文キック」のジャイアント馬場さんです。豪快な見た目とは裏腹に、彼は慎重すぎるほど慎重なタイプ。当たるんじゃないかとビクビクしながら恐る恐る手牌を切る姿がコミカルでした。

 強運の持ち主はやはり女性に多い。代表格が岸田今日子さんです。彼女も5週以上勝ち抜いていますが、特に上手いわけじゃない。それなのに十二本場なんて驚異的な連荘をしたこともあります。後ろで見ていても、整理牌譜を読み返しても、特別な打ち方をしているようには思えない。しかしなぜか勝ち抜いていく。不思議な打ち手です。

 連載終了時、保管していた整理牌譜は段ボールにして10箱以上になりました。引っ越しなどもあり処分してしまいましたが、譜面がなくたって、今でも当時の思い出は生き生きと蘇ってきます。

【プロフィール】
●古川凱章(ふるかわ・がいしょう):1938年神奈川県生まれ。元プロ雀士。阿佐田哲也氏、小島武夫氏らとともに「麻雀新撰組」を結成。トッププロとして活躍するかたわら、阿佐田氏から引き続き小誌連載「有名人勝ち抜き麻雀大会」の観戦記を20年の長きにわたって担当する。

協力■吉祥寺「弾飛瑠」 取材・文■田村康 撮影■木村圭司

※週刊ポスト2012年10月19日号

関連記事

トピックス

12月9日に亡くなった小倉智昭さん
小倉智昭さん、新たながんが見つかる度に口にしていた“初期対応”への後悔 「どうして膀胱を全部取るという選択をしなかったのか…」
女性セブン
六代目山口組の司忍組長。今年刊行された「山口組新報」では82歳の誕生日を祝う記事が掲載されていた
《山口組の「事始め式」》定番のカラオケで歌う曲は…平成最大の“ラブソング”を熱唱、昭和歌謡ばかりじゃないヤクザの「気になるセットリスト」
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
「どうして卒業できないんだろう…」田村瑠奈被告(30)の母親が話した“大きな後悔” 娘の不登校に焦り吐露した瞬間【ススキノ首切断事件】
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
Instagramにはツーショットが投稿されていた
《女優・中山美穂さんが芸人の浜田雅功にアドバイス求めた理由》ドラマ『もしも願いが叶うなら』プロデューサーが見た「台本3ページ長セリフ」の緊迫
NEWSポストセブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
結婚披露宴での板野友美とヤクルト高橋奎二選手
板野友美&ヤクルト高橋奎二夫妻の結婚披露宴 村上宗隆選手や松本まりかなど豪華メンバーが大勢出席するも、AKB48“神7”は前田敦子のみ出席で再集結ならず
女性セブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン
NBAロサンゼルス・レイカーズの試合を観戦した大谷翔平と真美子さん(NBA Japan公式Xより)
《大谷翔平がバスケ観戦デート》「話しやすい人だ…」真美子さん兄からも好印象 “LINEグループ”を活用して深まる交流
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「服装がオードリー・ヘプバーンのパクリだ」尹錫悦大統領の美人妻・金建希氏の存在が政権のアキレス腱に 「韓国を整形の国だと広報するのか」との批判も
NEWSポストセブン