国際情報

佐藤優氏 尖閣の「領土問題存在しない」発言やめるべきと提言

 外交交渉では相手の狙いを理解した上で、自国の国益を最大化させる術を探らなくてはならない。そのためには過去の論理に固執し、思考停止してはならないと元外交官の佐藤優氏は指摘する。中国との交渉で日本が新たに示すべき覚悟とはどのようなものか。

 * * *
 これからの日本外交に求められているのは、新・帝国主義に対応する思考ができ、勢力均衡外交を展開できる人材だ。真理は具体的だ。抽象的な外交論ではなく、日本の死活的利益と絡む具体的事案に適切な方針を見出すことが出来る知力、洞察力、胆力が必要とされる。

「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配しています。したがって、尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しません」(外務省HP)というのが日本政府の公式見解だ。だから外務官僚は「存在しない尖閣諸島をめぐる領土問題について中国と交渉することはない」という姿勢を取っている。

 その間に、中国は国際世論の支持を獲得することを目的に、「釣魚島及其附属島嶼(尖閣諸島に対する中国側の呼称)が、歴史的、国際法的に中国領であることは明白なのに、日本によって不法占拠されている。

 日本が領土問題は存在しないと主張しても、中国は存在すると考える。釣魚島問題は現実に大きな係争になっているのだから、第三者から見て、客観的に領土問題は存在する。それにもかかわらず、日本は問題の存在自体を否定し、交渉から逃げ回っている」という宣伝活動を展開している。

 このような状況を放置しておくと、国際世論は中国に引き寄せられる。尖閣諸島周辺で中国軍と日本の海上自衛隊が交戦すれば日本側が圧勝する。そして武力で問題を解決した日本は国際社会から激しく非難され、結果として国益を毀損することになる。

 政権中枢の政治家と外務官僚は、覚悟をもって、尖閣諸島に対する日本の主権を保全する現実的外交政策を構築すべきと筆者は考える。もはや現実を反映しない「尖閣諸島を巡る領土問題は存在しない」という発言を日本政府はやめる。

 もちろん、積極的に領土問題の存在を認める必要はない。その上で、「日本は中国に対し、どのような問題に関しても、いかなる条件もつけずに政府間協議に応じる用意がある」と表明する。

 それと引き換えに中国政府から「尖閣諸島を巡る係争について、最終的な結論が出るまで、中国人の釣魚島及其附属島嶼への上陸と諸島から12海里以内の水域への入域を差し控える」という了解を取り付ける。この程度の交渉力は現在の日本にあるはずだ。

※SAPIO2012年11月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン