国内

江東区と大田区に羽田沖の埋め立て地巡る「領有権争い」勃発

 日本領土をめぐって国際対立が激化している現在、実は日本国内でも、ある島の“領土問題”が噴出しているのをご存じだろうか。領有権を争っているのは、東京都の江東区と大田区。係争地の名称は「中央防波堤埋立地」という。
 
 羽田空港近くの東京湾に浮かぶこの島は、1970年代に廃棄物処分場として埋め立てが開始された。「ゴミの島」だったこの土地が近年、コンテナ輸送の要衝として注目を集めることになり、今年2月には島と江東区を結ぶ東京ゲートブリッジも完成した。

 注目度が上がるとともに、帰属未定だった島の領有権をめぐり、隣接する両区の対立が、激化しているのだ。最近、江東区に引っ越した30代男性が語る。
 
「郵便ポストに区の広報誌(『こうとう区報』10月11日付)が入っていて、見たら1面に大きく『埋立地は江東区に帰属すべき』『区民、区議会、行政が一丸となって解決へ』と書かれてあった。何事かと思いましたよ」

 江東区が「リトルリーグ世界大会優勝」というめでたいニュースより、この問題を1面トップに選んだのにはワケがある。江東区には、ゴミの埋め立てを通じて島を“実効支配”してきたとの自負があった。江東区の政策経営部港湾臨海部対策担当課長は胸を張っていう。
 
「歴史的事実として、ゴミ運搬車が江東区を通って埋立地に行かなければ、ゴミは処理できなかった。そのため、渋滞や騒音に区民が悩まされてきたのも事実です。そうした区民の犠牲の上に造成されてきた経緯から、当然、本埋立地は江東区に帰属すべきものです。都の調停にかけると、一部が大田区の帰属になる可能性もある。すべてが江東区の土地と考えているため、調停は考えていません」
 
 この江東区優勢のムードを一変させたのが、昨年12月、大田区の議員団が埋立地を“強行視察”した事件だった。視察した区議のひとりが、後日ブログで「大田区にある中央防波堤」と書くと、波紋が広がった。
 
 ブログには大田区民から「江東区との間に要らぬ摩擦を生じないように」との忠告コメントが寄せられたが、この区議は「この問題について認識のない議員がいるのでしょうか?」「大田区も帰属を主張するのは当然」とし、「そのままの表現とさせていただきます」と突っぱねた。
 
 大田区役所経営管理部副参事はこういう。
 
「大田区の主張は3つ。歴史的背景としてここは大田区民の海苔の漁場でした。また、江東区はゴミ問題を理由に挙げるが、大田区も都のゴミ政策に協力しています。最後に地理関係として、埋立地は羽田空港近くにあり、その羽田は大田区なのです」
 
 大田区では今年になって何度も区議会の議題に取り上げ、意識を高めている。江東区がなりふり構わぬ「区報作戦」で反撃したのも、危機感を覚えたからだ。
 
 双方が領有権を主張する背景には、注目度の高い土地であるほかに、土地拡大による都からの交付金増加や固定資産税収入を見込んでいる側面もある。

※週刊ポスト2012年11月9日号

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