国内

高学歴プア 東大院卒就職率56%、京大院卒はゴミ収集バイト

 学歴は武器、どころか足かせとなった。名だたる大学院を出ても非正規雇用、あるいは無職となってしまう者たちが続々と生まれている。そんな高学歴ワーキングプアの実態を『高学歴ワーキングプア』(光文社新書)の著者である評論家の水月昭道氏がレポートする。

 * * *
 京都大学大学院で博士号を取得したAさん。30代前半で他の大学の授業を週に2科目担当する非常勤講師だが、同時に毎朝の「ゴミ収集アルバイト」も続けている。生活を維持できないからだ。

 大学の非常勤講師は1科目を担当すると月4コマ(1コマ90分)の講義を行なう。報酬の相場は1科目3万円だから、Aさんは月収6万円。生活費に加え、資料代や研究費などの経費まで自己負担するため、アルバイトせざるを得ない。「超高学歴ワーキングプア」といったところだろうか。

 こうした非常勤雇用は私大に多く有名大学で半分、中には7割に達するところもある。大学全体でも正規雇用(教授、准教授など)17万人に対し、ポスドク、文系非常勤講師などを含めた任期つき非正規雇用は5万人程度で、ほとんどは任期1~3年。その他に非正規の働き口さえない者が5万人程度いるとされる。

 発端は1991年に当時の文部省が始めた大学院重点化政策にある。21世紀には修士、博士の必要性が高まるとの予測のもとで始まり、1991年に10万人だった修士・博士は2011年には約26万人まで激増した(平成23年度 学校基本調査より)。

 問題は“出口”が用意されていなかったことだ。例えば今、博士が大学教員として正規雇用されるかは、研究実績よりも「ポストに空きがあるかどうか」という要素が強い。院生を増やしても、上の世代がポストを空けなければ行き場はない。また、ユニーク学科の相次ぐ設立で大学側が教科ごとに正規教員を抱える余裕をなくし、非常勤講師を増やしていく流れとも重なった。

 こうして大学院重点化以降、特に文系の修士や博士となった40代前半から30代前半までが分厚い高学歴ワーキングプア層を形成しているのである。

 大学を離れ、民間企業に就職しようにも彼らの活路は開けない。修士・博士の称号は民間就職にはむしろ足かせとなる。新卒一括採用、年功序列賃金を温存する企業にとって、「学部卒と同じく就労経験はないのに、年齢は上なので高い給与を払わなければならない存在」である修士・博士の採用は敬遠されるのだ。東京大学の大学院博士課程修了者の就職率はたったの56%。文系修士でも75%だ。

 文科省は修士・博士のキャリアサポートに乗り出し、企業とのマッチングを行なっているが、状況が改善する兆しは見えない。そもそもこうした施策が取られた背景には、少子化で学部への新入生が減少する中で「大学院生を増やして食い扶持を維持したい」という大学側の思惑がある。これからも新入生は減少を続ける。だから大学側は院生の数を適正化しようとしない。格差の底辺に突き落とされる高学歴プアは増加を続けることになる。

※SAPIO2013年2月号


関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン