日米同盟強化を掲げる安倍晋三首相が1月中に熱望していた訪米がオバマ大統領の日程の都合などで実現できなくなった。この裏には東アジアをめぐるアメリカの外交の機微を安倍氏が理解していないのではないかというアメリカ側の危惧があるとの指摘もある。
そうした米国の空気をはっきり反映しているのが1月3日付のニューヨーク・タイムズ(NYT)の記事だ。
同紙は「日本の歴史を否定する新たな試み」という見出しで、安倍首相が旧日本軍による従軍慰安婦の強制を認めた河野談話の見直しに言及していることを「右翼の国家主義者」と批判し、「安倍氏の恥ずべき衝動は、北朝鮮の核開発問題などの対処に不可欠な地域の緊密な協力を脅かしている」と書いた。
米国を代表するクオリティペーパーが同盟国の首相をここまで激しい言葉で批判するのは異例である。
安倍首相と親交のあるマイケル・グリーン元米国国家安全保障会議上級部長は、NYTの報道を「安倍氏を危険な右翼だと憎む朝日新聞や一部毎日新聞の見立てを輸入したものだ」と産経新聞で解説したが、牽強付会すぎる。第一、朝日も毎日もそんな記事を書いていないのである。
米国政府関係者は、オバマ政権が安倍首相を信頼しきれていないのは理由があると明かした。
「オバマ政権は安倍首相が先頭に立ってタカ派発言を続けることを危惧している。仮に、安倍政権が河野談話を修正した場合、日本と韓国の関係が悪化し、極東の安全保障に重大な危機が生じる。オバマ政権は明確な形で抗議声明を発表せざるを得ないだろう」
そしてこう付け加えた。
「韓国の朴槿恵・次期大統領も訪米を希望している。事と次第によっては、オバマ大統領は安倍首相より朴大統領との首脳会談が先になるかもしれない」
そうなれば、「民主党によって傷つけられた日米同盟の強い絆を取り戻す」と大見得を切った安倍首相は赤っ恥をかかされる。
※週刊ポスト2013年1月25日号