街を歩けば無数の美容院が乱立している昨今。新しい美容院が開店したかと思えば、いつの間にやらなくなっている店舗も少なくない。理美容院あわせた市場規模は2兆円とされるが、飲食業などと比べて設備投資が少なくて済むこともあり、参入障壁も低い。そのため、新規開店率は常に廃業率を上回り、競合店が参入し続けている状況で、過当競争が続いている。
かつては「カリスマ美容師」がテレビで活躍したこともあったが、昨今は大々的に取り上げられる機会も少なくなった。しかし、ヘアカタログを見ると、人気店で根強い支持を誇る美容師がたびたび紙面に登場している。一部の女性の間では「絶対にこの人に切ってもらいたい」という美容師がいるのだ。
それでも、そんな勝ち組の美容師になれるのはほんの一握りにすぎない。都内の美容院でオーナーを務めるワタナベ氏(39歳・仮名)は、美容院の乱立で、自身のサロンが経営難にあえいでいると話してくれた。
「グループ店なんだけど、うちの店舗は全然儲からなくてね……。社長が他の店舗にスタッフを持っていっちゃうから今は自分と、新入社員の2人できりもりしてるよ。でもスタッフを減らされると、予約が入っても対応できなくなる。そうすると、結局お客さんはもっと減る。
先日なんて、新人の女の子が逃亡して音信不通に。でもFacebook上で彼女を見つけちゃってさ、『激務で鬱病になった』って書いてあったよ……。はじめは辛いし、お金も儲からない。肉体労働ですからね」
ワタナベ氏によると、専門学校を卒業後、青山や表参道、中目黒などの有名サロンで働くことができるのは、相当の技術をもった一部の人間だけなのだという。彼らは閉店後も技術向上のためにカット練習をし、サロンで寝泊まりすることも普通なのだそうだ。
こうして「勝ち組」と「負け組」がはっきりわかれるなか、多くの店は不況にあえぎ、八方塞がりで重労働を続けているという。ワタナベ氏が続ける。
「酷いケースになると、ホームページには『○○風のスタイリングが得意な女性スタッフ在籍』とか書いてあるのに、実際は男性スタッフ2人でやってる場合もあるからね(笑い)。社長が決めるから、使われてる俺たちはどうしようもないのよ」
自店をヘアカタログに載せようにも、有名店が枠を握っているので無理だという。モデルも無料で写真を撮らせてくれる女性を募集するしかない。美容業界も一部をのぞき、冷え込んでいるようだ。