名優たちには、芸にまつわる「金言」が数多くある。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、その言葉の背景やそこに込められた思いを当人の証言に基づきながら掘り下げる。今回は、田村三兄弟の三男、俳優・田村亮が名女優・山田五十鈴の思い出を語る。
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田村亮は「剣戟王」の異名で鳴らした往年の映画スター・阪東妻三郎を父に持ち、映画・テレビ・舞台を通して、田村は何人もの名優たちと経験してきた。そして、自らも日舞や三味線の技術を身に付けている。そのことは自身の芝居観を深める手助けとなってきたと同時に、若い俳優たちへの物足りなさへと繋がっているようだ。
「共演させていただいた中で特に感心したのは、山田五十鈴さんです。あの方は崩した感じが得意で、縁側で喋りながら、座る時に着物の裾をちょっと垂らすんです。僕は花道の向こうからその姿を観ていましたが、この姿がとても美しい。その時の目線の落とし方、座り方……おそらく計算だと思います。この方が絵面もいいだろう、という。
日本には古い名作がたくさんあるんだから、それを観て、学べばいいと思うんです。今は古い芝居をやったら、新しいものになりますよ。みんな知らないから。だから、古い作品から盗んで芝居をすると、今の人には新鮮に見えると思います。
古いことは、知っていればいい。知って、自分で工夫をするから良い芝居になる。そこを今の人は、知らないで工夫をしちゃうから、それはないんじゃないかということになってしまう。どの芝居がいいという正解はありません。ただ、流れを見たら、それはおかしいだろうっていうのはあります。そういう芝居だけは、ちょっといただけない」
※週刊ポスト2013年3月15日号