日本人は古くから魚を食べてきたが、その魚を取り巻く環境が激変している。TPP関税撤廃が取りざたされている今年、築地の初せりではマグロが1億5000万円という値をつけた。大きく変わろうとする時代のうねりの中で、世界最大の魚市場、築地の姿を作家の山藤章一郎氏がリポートする。
* * *
いよいよ〈TPP〉の交渉参加が決まった。現在、アジ、サバに10%、生鮮冷凍のマグロ、カツオに3.5%などの関税がかけられているが、水産業界も一気に激震に見舞われる。
だが関税撤廃問題以前に、世界最大の魚市場〈築地〉の売上高は年を追って減少し、10億を超す営業損失を出す通期もある。
1960年代、1000万トン以上の水揚げがあったが、いま半分以下に落ち込んだ。この正月、1億5540万円のホンマグロの破格値が話題になったが、築地はじりじりと痩せ細っている。
築地最大のマグロ仲卸〈やま幸〉山口幸隆社長の痛烈な危機感。
「昔はなんの努力もせずに、全国の魚が築地に並んだ。しかしいまは築地以外の流通が激増してます。
ところが二代目、三代目のバカセガレどもは、築地を素通りするのはけしからんと吠えてるだけで、市場分析すらしない」
やがて、築地で卸の家業を継ぐ者がいなくなる、と焦燥をあらわにする。
漁獲量の減少に関して、1億5000万円のマグロを揚げた青森・大間漁港の漁師の展望は明るいとはいえない。
「マグロは昔、海一面にいたが、今は、ソナーをつけてみんなで追いかけまわしている。そして数は少ない。型も小さい。子どもにマグロ漁師を継がせたくないと考えている親が少なからずいます」
※週刊ポスト2013年4月5日号