ビジネス

インフレ最大の被害者は年金受給者 ホームレス高齢者急増も

 資産運用や人生設計についての多数の著書を持つ作家・橘玲氏が、世界経済の見えない構造的問題を読み解く『マネーポスト』の連載「セカイの仕組み」。アベノミクスが最悪シナリオの財政破綻に向かった場合、【1】金利の上昇、【2】円安(通貨の下落)、【3】インフレという3つのリスクが想定されるが、ここでは「インフレ」について解説する。

 * * *
 20年もデフレが続いて、私たちはモノの値段が上がることをうまく想像できなくなっているが、財政破綻は最終的にはインフレに行き着くことになる。

 これはきわめて単純な理屈で、インフレというのは国家にとって税金の一種であり、歴史上、巨額の財政赤字はほとんどが「インフレ税」によって清算されてきた。インフレで借金の実質価値を減らすことができなければ、どこまでも財政赤字は拡大しつづけるから、けっきょくインフレになるほかはない。

 国債というのは固定金利による借金のことだ。あなたの月収が20万円で、期間10年で1000万円の住宅ローンを年利3%で借りているとしよう。このとき日本を900%(10倍)超のハイパーインフレが襲えば、生活はなにひとつ楽にならなくても、名目の月収は200万円になる。金利も大幅に上がっているだろうから、これを銀行に預けるだけで普通預金でも20%以上の利息がつくかもしれない。

 しかしそれでも、契約で決められた固定金利の年利3%という条件は変わらない。1000万円のローンの実質負担は10分の1以下になり、借金はたちまち返済できてしまう。インフレというのは、国家にとってこれと同じ効果があるのだ。

 しかしこれは、国債の(最終的な)保有者である国民にとってはとんでもない事態だ。物価が10倍になれば、1000万円の貯金の実質価値は10分の1になってしまう。銀行が破綻すれば、1000万円超の預金はペイオフで一部しか返ってこない。1990年代末の保険会社の破綻では、保険金の減額や保険料の大幅な値上げが社会問題になった。

 いったんインフレが起こると、円安を引き起こす。これは因果関係を逆にして、円安が輸入品の価格を押し上げて国内物価をインフレにする、といっても同じことだ。このようにして財政が破綻すると、金利の上昇→円安→物価の上昇というスパイラルが始まって、加速度的にインフレ率が上昇し、最後はハイパーインフレと呼ぶような物価の暴騰に至る。

 インフレの最大の被害者は年金だけで生活しているひとたちで、急速な物価の上昇で家賃を払えずにホームレスになる高齢者が激増するかもしれない。ハイパーインフレとは、国民を犠牲にして国家が借金を清算することなのだ。

【プロフィール】
●たちばな・あきら:1959年生まれ。作家。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』など著書多数。財政破綻に備える資産運用の詳細は新刊『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』を参照。

(連載「セカイの仕組み」より抜粋)

※マネーポスト2013年春号

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン