今や「ビールを飲んでも痛風は治る」が新常識。自ら痛風を患った医師らが「ビールは毎日よほど大量に飲まない限り、なんの問題もない」と太鼓判を押すほどだ。
自らの体を実験台に痛風を克服した体験を『痛風はビールを飲みながらでも治る!』(小学館文庫)に記している元鹿児島大学病院長の納光弘医師によれば、缶ビールなら350ml缶で2缶強、日本酒ならお銚子1本半程度の1.5合、ワインならグラス2杯を1日の目安にすればいいという。
さらに、ビールが悪いという定説だけでなく、痛風には様々な誤った常識がまかり通っている。以下にいくつか実例を紹介しよう。
【男性しかかからない?】
元々男性の方が、女性より尿酸値が高いため、痛風になりやすい。しかし、女性が痛風にならないというわけではない。
「昔は痛風患者100人中に女性は1人程度の割合でした。しかし、最近では食生活の変化などで、痛風の女性患者が増えています」(納氏)
【糖尿病と併発しない?】
病気自慢をする人の中には、痛風になると糖尿病にはならないと思い込んでいる人もいる。しかし、元昭和薬科大学教授で現在は病態科学研究所の田代眞一所長(医学博士)は、「それは間違い」ときっぱりと指摘する。
「糖尿病の人は血液が酸性に傾き、尿酸値が高い傾向があるので痛風になる可能性がある。痛風の場合も、高尿酸血症が血管にダメージを与えるので病変が出やすく、微細血管の多い腎臓への障害や糖尿病を併発することはあり得ます」
【現代病といわれるが、昔はなかった?】
「痛風は肉や卵など動物性たんぱく質や酒を長年摂る人が罹る病気のため、贅沢病といわれてきました。古代まで遡ると、ミイラの関節に尿酸結晶が見つかっており、医学の父、ヒポクラテスの文献にも痛風の記述が残っています」(納氏)
飢餓状態が常の古代であっても、王侯や貴族ともなれば、やはり贅沢な生活を送っていたのだろう。納氏によれば、他にも芸術家のミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチ、ニュートンなど有名な歴史上の人物にも痛風患者は多いのだという。
ただし、例外もある。それが昔の日本人だ。明治初期に日本に滞在したドイツ人医師ベルツは「日本には痛風はない」と記録している。粗食だった江戸時代までの日本人にとって、痛風は無縁の病気だったようだ。
「日本で痛風が初めて報告されたのは1898年で、1960年代まではたった83例しかなかった。それが現在では60万人を下らない、誰にでも起こりうる生活習慣病になりました」(納氏)
最後に、そんな痛風の予防法を納氏にまとめてもらった。
「プリン体の多い食品を一度に食べ過ぎないようにし、尿酸を排出するために1日2リットルの水分を補給する。また、過剰な肉体的ストレスは尿酸値の上昇を招くので、激しい運動を避ける。肥満の人の約70%は痛風の傾向があるので、普段から太らないように気を付けて生活してほしい」
もちろん、飲み過ぎが体に悪いのはいうまでもないが、痛風だからといってビールを我慢する必要はまったくない。
※週刊ポスト2013年6月7日号