スポーツ

桐光松井の写真に清原が驚愕 PL学園の伝説的な上下関係とは

 元プロ野球選手の清原和博氏が書いたコラムが、ネットの野球ファンに話題になっている。今夏話題の桐光学園・松井裕樹投手のあるシーンにからめて、高校野球界に苦言を呈した。フリーライター神田憲行氏が考察する。

 * * *
 清原氏のコラムは7月24日日刊スポーツ掲載の「オレの魂」。問題のシーンは桐光学園の神奈川大会で、ピンチを迎えたマウンドの松井投手の両頬を捕手が片手で鷲づかみしているところだ。清原氏はその捕手が1年生と聞かされて、

《ほんとにイスから落っこちた。1年生が3年の顔をつかむとは……》

 と驚き、以前のような暴力的な上下関係が正しいとは思わないが、と前置きしたうえで、

《だけど、けじめとか節度といった部分はあって当然じゃないか。(中略)野球は、プロの世界でも年長者を敬う雰囲気を持ち続けてきた。この伝統は守っていくべきだと思うな》

 もちろん清原氏の真意は桐光バッテリーを非難することではなく、「野球界全体が軟弱になっている」という主張にある。

 私はこの試合を現地の保土ヶ谷・神奈川新聞スタジアムで取材をしていた。1年生捕手の名誉のために補足するが、彼は先輩を敬わないような傲慢な性格では決してなく、突然取材陣から取材対応を指名されて、ロッカーから慌てて裸足で現れて、「松井さんに頑張って欲しかったんで……」と照れて小声で話すような選手だった。3年生の顔を鷲づかみしたのは、清原氏がコラムで推測していたとおり、彼の性格というより捕手としての使命感からだった。

 一方、清原氏が「イスから落ちる」ぐらいの衝撃を受けたことも、想像できる。

 清原氏の母校PL学園には、かつて研志寮という野球部だけの寮があった。3年から1年まで同部屋で、下級生は「部屋子」「付き人」と呼ばれて、3年生の身の回りの世話をする。洗濯はもちろん、夜間の自主練習を手伝う、夜食のチャーハンを作る(PLチャーハンといってサラダ油の代わりにマヨネーズを使う。コクがあり美味い)。朝食も前夜のうちから先輩に卵の調理方法を聞いて、目玉焼きかスクランブルエッグを作らねばならない。1年生は生卵のまま食べるのがルールで、2年生は自分で調理してもよい。

 PLからプロ野球に進んだある選手は「PL時代はいつもうつ伏せに寝てた」という。先輩の練習に付き合ってヘトヘトになって就寝するので、目覚まし時計を普通にかけても起きられない。またベルの音で先輩を起こしては鳴らない。それでうつ伏せになって目覚まし時計を抱えて眠り、ベルが鳴る直前の振動で起床するのだ。

「うつ伏せが癖になってしまって、仰向けで寝られるようになったのはプロに入って何年かしてからですよ」

 しかし他人から見れば理不尽の極みのような上下関係・軍隊生活を、この選手は懐かしそうに語るのだ。

「深夜の練習で先輩のトスバッティング手伝ったあと、『風呂入ろうや』と誘って貰えるのが嬉しかった。お風呂につかって野球の話とかいろいろしたりしてね。苦しさがあるから、甲子園で『仲良しこよしの学校に負けてられるか』という気持ちにもなれたんですよ」

 清原氏もコラムで「厳しい環境に身を置いてこそ、自然と技術も伸びてくる」と語っている。

 あとから振り返って、理不尽な体験が自分を成長させてくれたと感じる人は多い。私もそのひとりだし、清原氏のコラムに賛意を示す人が多いのもその現れだ。しかし高校野球の世界では、PLの研志寮的な世界は「神話」として語り継がれはしても、復活することはないだろう。

 今春選抜で優勝した浦和学院の寮は、相部屋のパートナーは同学年で、上級生といえども洗濯は自分でする。監督として甲子園最多勝利数を誇る智弁和歌山の高嶋仁監督は「下級生に洗濯やらせた奴は甲子園から和歌山に帰すと言ってある」という。いまチームの雰囲気を訊ねると必ず選手たちは「うちは上下関係がないんで」という。

 甲子園は野球観、教育観の戦いでもある。PLのような上下関係の厳しい軍隊的な組織を乗り越えるために、全国で開放的なシステムを取る学校が現れた。そういう学校をまたさらに乗り越えるためには、もう軍隊組織ではないことは、PLの研志寮が部屋子制度とともに部内暴力の「温床」として廃止されたことからも明かだろう。次に甲子園に現れる「勝てる組織」はどのようなシステムなのか、私の興味はそこにある。

関連キーワード

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン