芸能

前田吟 渥美清から26年間で一度も演技について助言されず

 映画『男はつらいよ』で寅さんの妹さくらの夫、博を演じてきた前田吟が語る、寅さんこと故・渥美清氏との思い出を映画史・時代劇研究家の春日太一氏が聞いた。

 * * *
 前田吟の代表作といえば、多くの方が『男はつらいよ』シリーズを思い浮かべることだろう。1969年から1995年まで続いた全48作にも及ぶ国民的作品で、主人公・車寅次郎(渥美清)の妹・さくら(倍賞千恵子)と結婚する博として出演し続けている。

 寅さんを演じてきた渥美清とは26年に及ぶ付き合いとなったが、撮影現場で演技について助言を受けたことは一度もなかったという。

「俳優ってアドバイスはしないものです。渥美さんにも極意を聞きたかったんだけどね。ただ、哲学者みたいに『吟ちゃん、スーパーマンは飛べないんだよ』って言うことはありました。要は謎かけなんです。

 僕の解釈としては、『映画の中のスーパーマンは空を飛べるけど、スーパーマンを演じる役者は空を飛べない』ということ。役者は全てを自分で表現するしかない。寅さんはみんなを笑わせて劇場で大歓声を受けているけど、あれは役柄としての『寅さん』であって、『俺自身はあんなに人を笑わせたり楽しませたりできないんだよ』と渥美さんは言いたかったんじゃないかな。

 先輩でアドバイスをくださったのは、小林桂樹さんだけですね。よくお酒を飲んだのですが、その時に『演技というのは、ホテルの部屋の鍵穴から見られているようなもんだ』と教わりました。あまり後ろばかり向いていると、お客さんはもう嫌になって見てくれなくなる。どこかでチラッと『俺はいるぞ』という顔を見せないと。ですから、あまり流れるような演技ばかりしていてもダメなんですよ。

 それで『赤い』シリーズなどでは思い切った悪役をやりました。髭をつけたりオールバックにしたり。『男はつらいよ』で人間的に素晴らしい役を演じてきたけど、その世界を嫌いな人も絶対にいる。リアリズムだけじゃないそういう劇画っぽい芝居もしないと、お客さんに飽きられると思ったんですよ」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。

※週刊ポスト2013年10月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
大河撮影前に2人で北海道旅行をしたという(時事通信フォト)
吉高由里子、セレブ恋人との結婚は『光る君へ』クランクアップ後か 交際は事務所公認、大河スタッフも“良い報告”を楽しみに
週刊ポスト
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン