日本人なら誰でも好きなお味噌。購入総額全国1位の熊本には、豊富な味噌料理がある。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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信州や仙台をはじめ、全国に「味噌どころ」は数多い。さらに言えば「手前味噌」という言葉もあるように、各家庭でも独自の工夫を凝らした味噌が作られてきた。
その味噌の購入消費額を総務省の全国家計調査(2012年)の上位から順に挙げていくと、第1位は熊本市(2668円)、第2位秋田市(2544円)、第3位盛岡市(2476円)となる。いずれも信州のような「味噌どころ」というわけではない。だがどの地域でも、味噌を使った料理が生活に根づいている。
例えば、第3位の盛岡市(2476円)には麺どころである盛岡三大麺のひとつ、「じゃじゃ麺」という肉味噌ときゅうりネギをかけた汁なし麺が有名だが、この地域では、はしりのふきのとうを刻んで、味噌や砂糖、みりんで練りあげた「ばっけ味噌」や、同様に焼きうにを味噌と砂糖で練りあげた「うに味噌」など、ごはんのおともや酒のつまみにうってつけの郷土料理が多い。
同じ東北で隣接県に位置する第2位の秋田市での味噌使いは、少々傾向が異なる。郷土名物のきりたんぽに練った味噌をつけて焼き上げた、みそ焼きたんぽ(きりたんぽ田楽)など練ったものを焼いて「焼き味噌」として味わう傾向が強い。前出の盛岡はじめ、東北北部で親しまれる「ばっけ味噌」も、秋田では「ばっけの焼き味噌」として親しまれる。
そんな秋田市、盛岡市を抑えて第1位となった熊本市は格が違う。何しろ日本で唯一、味噌に対してご利益のある「味噌天神」があるのだ。正式には「本村神社」と言うが、そもそもは8世紀に「御祖(みそ)天神」を祀ったのがはじまり。その後、国分寺の味噌蔵の守護神となったので「味噌天神」と呼ばれたという。
そうした言い伝えもある「味噌天神」のお膝元だけに、熊本では味噌の使い方のバリエーションも豊富だ。例えば熊本名産の「からし蓮根」の詰め物もベースは味噌。ふだんから味噌汁をよく飲む上、「すいとん」にも似た「だご汁」もみそ味が主流。「ひともじ(わけぎ)のぐるぐる」はゆでたわけぎを巻くように形をつくり、酢味噌や辛子味噌をかける。さらに阿蘇高森の「高森田楽」では里芋や豆腐などの田楽でよく使われる素材に加えて、ヤマメや沢ガニなども使われる。さらに鎌倉時代から受け継がれてきたとも言われる「豆腐の味噌漬け」も、もろみで漬けた「山うに」と呼ばれるものなど、多くの種類がある。
詰め物、汁物、和え物、焼き物、漬物など、熊本で味噌は多くの郷土料理に使われてきた。味噌料理はいまもしばしば熊本の家庭の食卓にのぼる、活きた「食」であり、欠かせない「味」なのだ。購入消費額、日本一の地には、その冠に見合った食文化が根づいている。