冬の味覚として人気が高いフグは、その毒性の高さでも知られている。ところが、なかには毒性のないフグもあり、無毒フグを養殖することもできると高木道郎氏が解説する。
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毒魚と聞いてすぐに思い浮かぶのはフグである。なにしろ他の毒魚とは毒性のランクが違う。フグ毒は青酸カリの500倍の強さがあり、熱を加えても分解せず、今のところ解毒剤も有効な治療法も見つかっていない。
フグ毒はテトロドトキシンと呼ばれ、海に生息する海洋細菌から作り出され、食物連鎖によって特定のヒトデや貝などに取り込まれる。それを食べたフグの体内に蓄積して毒性を強めるが、フグは好んで毒性の強いヒトデや貝を食べ、危険やストレスを感じると体表からフグ毒を分泌して身を守るらしい。したがって、毒性のないエサだけで養殖すると無毒フグができる。
ほとんどのフグは体のどこかに毒性を持ち、卵巣、肝臓、腸、皮は強毒を持つが、シロサバフグのように卵巣にも皮にも毒を持たない無毒のフグもいる。
ただ、自然界は皮肉でこれとそっくりなドクサバフグは精巣や筋肉(身)にも強い毒性を持つ。釣りのターゲットになるフグもいて、関東では古くからショウサイフグが食用として流通しており、房総半島などでは青柳(バカガイ)のむき身を刺したハリの下にイカリ形の掛け針を付け、しゃくって引っ掛けるカットウ釣りが盛んだ。
ショウサイフグは身と精巣(白子)が無毒だが、皮や卵巣には猛毒、肝臓にも強毒があるため、釣ったフグは調理師免許を持つ船頭さんがさばいて毒を取り除いてくれる。
キタマクラとクサフグはエサ取りの常連。キタマクラは皮に強毒があり、迂闊に食べるとそれこそ北枕で寝かされる。クサフグは入れ食いになることが多く、釣れ出すとハリがいくらあっても足りない。箱型の甲羅を持つハコフグも釣れるが、これは皮の粘液に微毒があるだけ。長崎県福江島では甲羅を器にして焼き、味噌を入れて身や肝と和える漁師料理を食べたが、これは逸品だった。
文■高木道郎(たかぎ・みちろう):1953年生まれ。フリーライターとして、釣り雑誌や単行本などの出版に携わる。北海道から沖縄、海外へも釣行。主な著書に『防波堤釣り入門』(池田書店)、『磯釣りをはじめよう』(山海堂)、『高木道郎のウキフカセ釣り入門』(主婦と生活社)など多数。
※週刊ポスト2013年11月1日号