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2013.11.17 15:59  週刊ポスト

永井荷風の『腕くらべ』には岩波文庫で唯一の口淫シーン登場

 人間の性の有り様は、一流の作家がフィクションとして描く男女の交わりにこそ最も生々しく描かれているといっても過言ではない。文学のSEXにも人々が学ぶべき性愛があるはずだ。

 舟橋聖一の『好きな女の胸飾り』に登場するシチュエーションが好きだというのは、作家・比較文学者の小谷野敦氏である。

「青年がタクシーの中で、好意を寄せる人妻とその夫と一緒に後部座席に座っていて、人妻の体が股間に密着してきて、射精してしまう場面があるんです。たんにセックスして果てたというようなものとは違って、ありえないようなシーンが面白い」(小谷野氏)

 ノーベル文学賞作家・川端康成は、『舞姫』で妻が夫とのSEXでエクスタシーを感じるところを<「私、どうにかなっちゃう」>という台詞で表現した。しかし、この作品を書いたのがちょうどわいせつと表現の自由の問題が問われたチャタレー裁判と重なる時期だっため、検閲が怖いという理由で削られてしまったという。

 川端のエロティックな描写はあの名作にも。

「『雪国』の最初のほうには、<指で覚えている女>という表現が登場します」と小谷野氏。主人公がその女と再会し、宿で情交に至る場面はこうだ。

<「こいつが一番よく君を覚えていたよ」と、人差指だけ伸ばした左手の握り拳を、いきなり女の目の前に突きつけた。
「そう?」と、女は彼の指を握るとそのまま離さないで手をひくように階段を上って行った>

 こんな婉曲的な表現も、ムードを高める演出として使えるかもしれない。

 さらに永井荷風の花柳小説『腕くらべ』には、フェラチオのシーンまで。

「岩波文庫で唯一、フェラチオシーンが描かれています。芸者が宿の湯に入って、自分の旦那と間違えて新婚男性にやってしまう。面白いですね」(小谷野氏)

 その部分を読むと、フェラは<洋行帰りの人から教わった事>で、<芸者も女郎も並大抵ではしもされぬ事>というから、当時としてはかなり特殊なサービスだったようだ。

<いきなり、いやな鼻声身をふるわすかと思えば忽ちしたたか私が口の中うろたえて後の始末どうしよう>と、精液を口の中で受け止めた女。だが、その途端、<耳元近くおそろしい女の声>。

 小谷野氏のいうように、女がフェラをした相手は<見も知らぬよその人>で、<入ってきたのはその人の新婚したての御夫人とやら>という顛末。コミカルでいて、なんとも興奮する描写だ。

※週刊ポスト2013年11月22日号

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