しかし『亡国の中学受験』などの著書を持つ瀬川松子は、中学受験ブームを、「教育格差ビジネス」、あるいは「公立不信ビジネス」として痛烈に批判する。
「中学受験ブームの裏側には、保護者の公教育に対する不信と、格差社会に対する不安を塾などが煽ったことがあります。お子さんを公教育で勉強させると、いい大学に進めず、正社員となることができずに格差社会において負け組となる可能性が高くなります。そうならないためには、私立中高一貫校を受験した方がいいですよ。けれども、お代はしっかりいただきます──という商売です」
だが、私立中高一貫校の“楽園イメージ”は確実に崩れつつある。文科省の2012年度「子どもの学習費調査」によると、私立中学の生徒を持つ保護者は、3年間で家庭教師や学習塾に平均で50万円近く支払い、通塾率は50%超となる。「塾に行かなくてもいい」というイメージと明らかに矛盾する。
それだけではない。近年、従来「いじめがない」とされてきた中高一貫校でいじめの問題が次々と発覚。さらに、生徒数の減少で私立中高一貫校同士が生き残りをかけた競争の渦中に置かれることになるなかで、“できない生徒”が切り捨てられる場面も出てきた。
私立中高一貫校の生徒が6年間でどれほど中途退学するのかという公式な統計数字はない。しかし、私立中高一貫校の事情に詳しい森上教育研究所の森上展安は、「平均すれば1割前後になるといわれている」と語る。
〈NPO高卒支援会〉の代表・杉浦孝宣は「少子化の中、どの私立中高一貫校も、実績を挙げるのに必死だ。少しでも多くの受験生を集めたい学校にとって、勉強のできない生徒や意欲のない生徒はお荷物になるだけだ」と語る。
つまり、中退の裏には、学校間の競争が激しくなった結果、生徒の“リストラ”が行なわれている側面もある、というのだ。
※週刊ポスト2014年1月31日号