きゅうりにはちみつをかけるとメロンの味になる。かねてから巷の噂ではそういわれているけれども、本当にそうなのか。実際に試してみると、似ているような、似てないような…。それを実証すべく、科学の目で確かめた人がいる。九州大学主幹教授の都甲(とこう)潔さん(60才)だ。
「ほかにも麦茶に砂糖とミルクを入れたらコーヒー牛乳に、みかんとしょうゆとのりでいくらの味になるといわれていますが、本当にそうなのか? なんでそうなるのか? 巷の噂をサイエンスの目で見てみたいと思ったのがきっかけでした」(都甲さん・以下同)
舌にある味細胞が食品内の化学物質を受け取ると電圧が発生する。その変化が脳に伝わり、味を構成する「酸味」「苦味」「甘味」「塩味」「うま味」の程度を識別するのだという。
「つまり、舌で味を感じた時点ではおいしいとかまずいとかの主観ではなく、神経の反応にすぎません。これを数値化したのが『味覚センサ』です」
『味覚センサ』の開発によって、どれくらい味が似ているかを数字で表せるようになった。まず、食材同士の味が似ている組み合わせは、数値化してもそっくりの味になることが明らかになった。
「全部が全部成功というわけではありませんが、麦茶に砂糖と牛乳を入れた味を数値化すると、コーヒー牛乳とほぼ同じ味になるとわかりました。それはもともと麦茶と薄いコーヒーが同じような味だから。このような場合は味が似るのは当然なのですが、みかん+のり+しょうゆがいくらの味に似るように、それぞれ違う味同士が補い合うというパターンもあるということも判明したんです」
都甲さんの研究は味の組み合わせ事例を立証するだけではない。人間の味覚を測ることで、医薬品の開発などにも貢献できると考えている。
「人間の味覚は主観的であいまいですし、限界もあるんです。私の今後の目標に、苦くない薬を作りたいというのがあるんですが、人間が味見をするとなると、副作用があるので一度にたくさんの薬をのむことはできません。また、苦味というのは舌に長時間残るので、1日に何通りも試すことができない。そこで『味覚センサ』を使えば、短期間で幾通りのパターンも試すことが可能になるんです」
長年の研究実績によって、2013年春には紫綬褒章を受章。
「それも『味覚センサ』の製造開発に携わってくれたかたや妻という協力者がいたからこそ。ぼくは『人の幸せにつながる開発』が研究テーマのひとつなので、受章したことで周りの人たちが喜んでくれたことは幸せでした」
ところで最近は食の偽装が問題視されているが、都甲さんは「ばかばかしい」とばっさり。
「それこそ『味覚センサ』で測定し、同じ味ならそう売り出せばいいんです。カニカマを食べて“本物のカニよりまずい”とわかる人がどれだけいるでしょうか。“○○もどきだけど味は一緒”と正直に言えば、ちゃんと売れるはずです。そういったところに『味覚センサ』を活用してほしいですね」
※女性セブン2014年2月20日号