人前で裸になり、女優を抱き、射精する──アダルトビデオ業界で働く父親たちは、愛する我が子に生業の「誇りと恥じらい」をどのように伝えるのだろうか。佐川銀次さん(48歳)は、26歳でデビュー以来、7000本以上のAVに出演し、1万人近い女優を抱いてきた。
「女房は高校の同級生。20歳の時に結婚しました。子どもは、社会人になった19歳の長男を筆頭に、16歳、13歳と男の子ばかりです」
驚くことに、佐川さんは子どもたちだけでなく、奥さんにも「AV男優をしている」と明言していない。
「そのあたり、わが家は微妙なバランスで成り立っているんですよ。もちろん、女房は僕の仕事を知ってはいるけど、家で話題にしません。息子たちにも語っていないはずです」
むしろ、家族の周囲で激震が起こった。
「女房の妹がAVを観ちゃいましてね。彼女から、『姉さんだって気づいてるはず。でも、ずっと我慢しているんだよ』と責められ、返す言葉がありませんでした」
佐川さんがもっともショックだったのは、長男が中学を卒業した際のことだ。
「卒業アルバムに、息子の野球部仲間数人が『目指せAV男優』って寄せ書きをしてたんですよ」
すっかりバレていたのか──佐川さんは悄然とした。
「書いた連中は息子の親友で、ウチにもよく遊びに来てた。それだけに、衝撃は大きかったですね」
奥さんによると、長男はアルバムを開いて、「参ったなあ」と平静を装っていたという。佐川さんは長男の心情を思って言葉を失う。そんな父の胸中も知らずに、小学生だった三男が長兄に尋ねたのだった。「兄ちゃん、AV男優ってなんのこと?」だが、長男は毅然として弟を諭した。
「お前はまだ知らなくてもいいんだ」
佐川さんは、当時を思い出して苦笑する。
「長男なりに、私の仕事のことで苦悩してたんでしょう。そして、自分の力で解決してくれていたんです」
とはいえ、佐川家はギクシャクしているわけでは決してない。
「父と子の仲は順調です。高校生の次男とは、サッカーやロックのことで話が盛り上がっています。近々、家族そろってエリック・クラプトンのコンサートに行く予定です」
長男は就職し、親が注文を付けなくとも、率先して食費を家に入れている。それどころか、彼にいわれて佐川さんは瞼を熱くした。
「来年はオレも成人式。オヤジ、そしたら一緒に酒を飲んでくれよ」
三男は中学生。そろそろ思春期に突入する。
「そこは家族の力を期待しています。妻や長男、次男のように、いまの微妙で奇妙なバランスのまま突破できればと思っています」
※週刊ポスト2014年2月28日号