ライフ

認知症の高齢者が交通事故 家族が監督責任問われることも

 高齢になると、本人は「まだまだ運転には自信がある」と思っていても、家族に「危ないから免許は返納してほしい」といわれるケースが増えてくる。だが、「病院に行く時は車がないと困るし、妻と買い物に行く時だって、重い荷物を持って歩くのは大変」(70代男性)と、年をとればとるほど車を必要とする事情もあり、運転免許を更新するか返納するかはなかなか難しい選択だ。
 
 ただし、現実は高齢者ドライバーには強い逆風が吹いている。2012年11月には、76歳の男性が運転する軽トラックが路側帯に突っ込み、下校中の小学生を次々にはねる事故が発生。この男性には認知症の症状があったこともあり、高齢者の運転の危険性が問題になった。
 
 高知大学医学部の研究者らが2008年に行なった調査によると、調査対象とした認知症患者約7300人のうち、11%が認知症の診断を受けた後も運転をやめず、うち16%に当たる約130人が人身事故や物損事故を起こしていたという。
 
 さらに警察庁によると、2012年8月までの2年間に高速道路で起きた“逆走”447件のうち、約7割が65歳以上の運転者だった。万が一交通事故を起こし、被害者を出してしまったら、取り返しのつかない事態になる。
 
 民事では「不法行為に基づく損害賠償責任」を負うことになり、人身事故の場合には刑法の自動車運転過失致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われる可能性もある。運転して事故を起こした人が認知症で“責任能力なし”と判断された場合や、本人に損害賠償金を支払う能力がない場合には、家族が“監督責任”を問われることもあるのだ。
 
 最近では、運転免許を返納した人に対し、各都道府県は“特典”まで用意している。例えば警視庁では運送会社や信用金庫、ホテル、商店、飲食店などと提携し、さまざまな割引サービスを行なっているほか、美術館や公園での優待サービスもある。
 
 とくに車が必要ない人なら、返納するほうがお得なようだ。しかし一方では、高齢者の運転をサポートするような技術も日進月歩で、高齢者が運転を続ける環境も整ってきている。
 
「最近では人や障害物を察知して自動的に止まる機能がついた車も出てきているので、アクセルとブレーキを踏み間違えても危険は少ない。各自動車メーカーは、高齢者の被験者を使ってドライビングシミュレーターでデータを取り、研究開発を進めているので、高齢者のための対策技術は今後さらに進んでいくでしょう」(自動車ジャーナリストの清水和夫氏)
 
 自分の運転に不安があるという人は、とりあえずは「返納」ではなく、「自粛」という手もありそうだ。

※週刊ポスト2014年3月7日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン