日本の漁業は衰退の一途を辿ってきたのが現実だ。漁業総生産量は1980年代半ばに約1280万tでピークを迎えた後、下降し続けて現在は480万t前後。従事者数も1949年の約109万人から約20万人まで減り、4割が60歳以上で後継者問題も深刻化している。
2009年の統計によると、沿岸漁業者の1世帯あたりの平均所得は251万円に過ぎない。震災前の状態に戻すことは、再び衰退の道を進むことを意味する。そうではなく、未来につながる新しい漁業をつくることこそが、この災害を乗り越えて漁業と漁村を復興させることではないのか。
例えばソフト面でもこれを機に改革すべき課題は多い。東北太平洋岸では底引き網によるキンキ漁が行なわれており、水揚げ量は40年前に比べて10分の1にまで減少した。平均体長も18cmから8cmになった。底引き網漁は海底を袋状の網でさらう漁法で、繰り返すと海底が平らになり餌となるエビが育たずキンキも大きくならない。
乱獲を防ぐ総量規制が日本では機能していないからだ。『海は誰のものか』(マガジンランド刊)の著者で、水産庁課長を経験した国際東アジア研究センター客員主席研究員の小松正之氏はいう。
「日本の総量規制は、約400種の商業魚種のうち7魚種にしかなく、それも各漁師が早い者勝ちで漁を行ない総量に達したら操業停止という『オリンピック方式』。我先に小さくても他人より多く獲ろうとするから環境と資源へのダメージは大きい。漁船も大型化して過剰投資になり、同時期に小さいサイズの同じ魚が大量に市場に出て価格も低下する。美味しくもない」
一方、欧州の大漁業国ノルウェーでは漁船ごとに漁獲量を割り当てる「漁船別漁獲割り当て方式」を採用している。割当量が決まっているから漁師は急いで獲る必要がないため、マーケットが必要としている時期に高値で売れる大きな魚を選んで獲ることができる。この規制で同国は水産資源と漁業者の経営の回復に成功し輸出量も伸びた。結果として漁業者も地域社会も潤っている。
小松氏によればノルウェーでの漁業者のおおよその年収は580万~1000万円だという。60歳以上の割合も10%で、漁師は若い人たちが多い職業になっている。
豊饒な海に囲まれながら、日本の漁協の8割が本業の漁業は赤字で、本業以外の収益で賄っている状況だ。そこには漁業補償金や国の補助金が含まれる。これまでそれは改革の手の及ばない聖域(魔窟と言えば言い過ぎだろうか)だったが、こういう時にこそ既得権者も周囲の住民も一緒になり、地域の発展のために必要な改革に着手すべきだ。
※SAPIO2014年4月号