人口約200万人。面積にして北海道の3分の1ほどにすぎない小さな半島が世界を混乱に陥れた。「米露関係は冷戦終結後で最悪」とされ、日本ではロシアを非難する論調が目立ったが、それは一方的な見方だ。大前研一氏は、日本は今こそアメリカ追従一辺倒を改め、独自外交を進めるべきだと指摘する。
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そもそも「クリミアの独立」「ロシアへの編入」を認めないという米欧の主張は矛盾だらけだ。
クリミアは住民の58%がロシア系、24%がウクライナ系、12%がタタール系で、民族的なまとまりが悪い。
歴史的にも非常に複雑だ。ここはゴート族、フン族、キエフ大公国、モンゴル帝国、タタール人、オスマントルコなど様々な民族と国が侵入したり占領したりした地域で、ナイチンゲールが活躍したクリミア戦争(1853~1956年)の主戦場になった。1954年にはウクライナ系ロシア人だったフルシチョフ第1書記が同地をロシア領からウクライナ領に編入した。当時はソビエト連邦の中での組み替えだったために大きな問題とはならなかったが、ソ連崩壊後には帰属を巡って争いとなり、当時もウクライナからの独立運動が起こっている。
そして、クリミアのセバストポリにはロシア黒海艦隊の主要基地がある。もちろん「力による強奪」などではない。ロシアは1997年の協定でその海軍基地を20年使用できる権利を取得し、2010年には当時のヤヌコビッチ大統領との間で、ウクライナが滞納していたロシア産天然ガス料金を免除する見返りとして租借期間を25年延長する契約を結んだ。また、数百機の軍用機もクリミアの首都・シンフェロポリなどの空港に駐屯できることになっている。
不法占拠でも何でもなく、日本が横須賀と横田を米軍に貸しているのと基本的には同じで、ロシアとウクライナ(とくにクリミア)は、軍事的にはアメリカと日本の関係と似たような間柄だったと言える。