ライフ

【著者に訊け】野地秩嘉 幻の豚追う『イベリコ豚を買いに』

【著者に訊け】野地秩嘉氏/『イベリコ豚を買いに』/小学館/1500円+税

 イベリコ豚というよりは、「人」に会いにゆく物語だ。思えば昨年話題を呼んだ例の「お・も・て・な・し」にしても、『サービスの達人たち』や『皿の上の人生』等、数々の著作を通じて、著者・野地秩嘉氏が真髄を伝えてきたのではなかったか。

 また2011年刊行の『TOKYOオリンピック物語』は、再びの東京五輪決定に沸く今こそ読まれるべきで、アジア初の五輪開催という一大事業をまさにゼロから成し遂げた人々の奮闘劇は、〈膨大なディテールの積み重ね〉こそが感動的だった。

 本書『イベリコ豚を買いに』でも、今や巷で大人気の超高級豚を、氏は「食う」や「書く」にとどまらず、丸々2頭「買って」しまう。しかも目的は〈ポークマーチャント〉、つまりイベリコ豚を買って売って、ビジネスを始めることにあった! 野地氏はこう語る。

「例えば沢木(耕太郎)さんの『一瞬の夏』。あれに近い冒険譚なのかなって自分では思うんですね。今まではわりと第三者的なノンフィクションを書いてきたんですが、この手の本はもっと僕自身が熱演しなきゃダメだと思って、それこそ〈わたし自身の行動が物語〉と言い切れるくらい、元手も時間もかかってます」

 端緒は2009年。秋田の酒場で供された〈イベリコ豚のメンチカツ〉だ。〈秋田のスナックでさえイベリコが出てくるのか〉〈イベリコ豚ってのは、そんなにたくさん飼われてる豚なのか〉

 聞けば〈どんぐりを食べる〉とかいうその豚をぜひ見てみたい→出発前の2010年4月に宮崎で口蹄疫が発生→取材を拒まれ、〈そうか〉〈買えばいいんだ〉と取材から購入に作戦変更→どうせ買うなら商品化できないか、というのが、野地氏が本書で辿る大筋の流れだ。

「結局、首都マドリードから南西へ約150kg行った放牧場『フィンカ・デ・カシージャス』を初めて訪れたのが2012年の1月、銀座の人気店『マルディグラ』の和知徹さんたちと開発した〈マルディグラハム〉の初出荷が昨年暮れで、秋田の一件からは実に5年がかり。

 あの時あっさり取材できていたら本にはしなかったと思うし、豚を買った以上はたとえ2頭でも〈継続的に〉買いたかった。それがレヒーノを始め、仕事相手に対する礼儀だと思ったので」

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン