「モヤさま」体験を大江さんはこう総括しています。
「私たちは今まで『テレビはこうあるべき』という先入観に縛られて、自らテレビの可能性の幅を狭めていたのかもしれません。きれいに見せよう、作ろう、ということを追求するあまり偶然の産物や人間が本来持ってる間を削り落してしまい、しかもそれを良しとして疑わなかったのかもしれない」 (「クイック・ジャパン」77)
きれいに作る意識が先行し、偶然の産物や間を削り落してきた。それがテレビの可能性を貧しくしてきた。「モヤさま」体験を通してそのことを発見した、というのですから実にクールでクレバー。
だとすれば。
「モヤさま」で得たその発見を、ニュースキャスターに応用すればいいのでしょう。ただきれいに作るのではなく、モヤモヤや偶然や間合いを大事にしながら、経済問題に自分の肌感覚で迫る。「経済ニュースはこうあるべき」という先入観に縛られず、幅を広げていく。
キャスターはその語源通り、「ニュース」を「キャスティング」する人、配役する人。スタジオにいる他のアナウンサーやゲストコメンテーターを、個性にあわせて使い分け、間合いや偶然を上手に扱いながら回していく大役です。大役だけに、自分の世界を創ることができる。
ぜひ、「モヤさま」「アド街」手法を積極的に取り込み、予定調和から逸脱して欲しい。 時には「街」に飛び出し、普段注目されていない街の細部にモヤモヤと宿る「経済問題」を掴み出して、そこから国家や世界にまで視線を伸ばして欲しい。
大江さんにしかできない、クールで清涼感のある自然体で、好奇心旺盛で遊び心に満ちた、新キャスター像を打ち立てて欲しい。エールを送ります。