安倍政権の成長戦略が6月末に決定される予定だが、議論の中でよく出てくるのが「岩盤規制」というキーワードだ。元キャリア官僚で規制改革担当大臣補佐官を務めた原英史氏(政策工房社長)は7月1日に発売される『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)の中で、「岩盤規制」を打破することがなぜ重要かを解説している。
* * *
日本社会は「役人の掟=規制」でがんじがらめだ……と言われても、あまりピンとこない人が多いかもしれない。役所による規制で行動が制約されたと感じることは、そう多くはない。
しかし、当たり前に過ごしている日常の中に、実は「役人の掟=規制」はたくさん潜んでいる。例えば、街でタクシーに乗れば、初乗り運賃はどの会社もほぼ同じ金額だ。当たり前のことのようだが、考えてみてもらいたい。世の中のたいていの商品やサービス――自動車の値段、レストランやホテルの料金などは、ピンからキリまである。なぜタクシーの運賃だけはほぼ共通かというと、そこに「役人の掟=規制」があるからだ。
もちろん、さまざまな規制には合理的な理由が全くないわけではない。民間のビジネス活動に任せきりにして何の規制もしなければ、おかしな事業者が現われて危険な商品や悪質な商売がはびこることもあり得る。こうした場合、一定の規制は必要だ。
ただ、問題はしばしば、「必要以上に厳しい規制がなされる」「かつては合理的だった理由が時代遅れになったのに、規制だけは残る」といった事態が生まれることだ。
なぜそうしたことが起きるかというと、規制によって利益を享受する人たちがいるからだ。例えば、規制によって新規参入が制限され、十分に高い公定価格が定められていれば、既に参入している事業者としては競争に身を晒さらすことなく、利益を出し続けることができる。規制が取り払われれば新たな事業者が参入し、もっと安い価格や新たなサービスメニューを提供するかもしれないのだから、損をしている、つまり搾取されているのは消費者だ。
特定の既得権者による、無数の一般市民からの搾取。規制の世界でよく出てくる構図だ。そして、この利害対立で勝つのはたいてい既得権者だ。既得権者は、いわゆる族議員や官僚機構と一緒になって「鉄のトライアングル」を組み、不合理な規制を必死で守ろうとする。一方で、無数の一般市民の側は搾取されていることに気付いてさえいないことが多いのだから、勝負にならない。
こうして、事情を知る人は不合理とわかっているが、決して緩和・撤廃されない強固な規制が数多くはびこることになる。これが最近、安倍首相もよく口にする「岩盤規制」(岩盤のように強固な規制の意)の正体だ。
「岩盤規制」を打ち破る――。これは、日本の経済・社会にとって長年の懸案だった。言うまでもなく、こんな搾取構造が残されたままでは社会全体が豊かさを享受できず、健全な経済成長もできない。アベノミクス第3の矢である「成長戦略」で、岩盤規制の打破が最大の課題とされる所以だ。
※原英史・著『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)より