そのカラクリは、保険料納付の免除者(384万人)や学生などの猶予者(222万人)を増やして、分母(納付すべき人)から除外することで見かけの納付率を上げるというものだった。
「免除者増やし」は国策なのだ。冒頭のAさんを訪問した女性は、その役割の一端を担っているといえる。Aさんと女性のやりとりに戻ろう。
玄関先で女性から渡されたのは、「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」というA4判2枚つづりでカーボンコピーになっている書類だった。言われるままに生年月日、氏名などを書き込む。しかし、空欄となっている基礎年金番号がわからない。
戸惑っていると女性はスマホを覗き込んで、「あなたの年金番号は○○○○○○ですね」という。手取り足取りの指導で数分のうちに書き終わった。そうしてあっという間に「免除申請」が済んでしまった。年金の受給を申請する時にはうんざりするような面倒な手続きをさせられるのとは対照的だ。
この間、「未納分を支払ってください」という言葉はなく、はじめから「免除できます」というやりとりだった。Aさんは支払う意思や余裕があるかどうかすら聞かれていない。これでは単に払うのを忘れていただけで納めたいと思っている人も免除申請してしまう。
いま、同様の未納者訪問が全国で繰り広げられているのである。
実は、「免除のススメ」を行なっているのは年金事務所の職員ではない。あまり知られていないが、2009年からこうした事業は民間業者に委託されている(2005年から実験的な委託はされていた)。訪問しているのはそれらの業者に雇われた人たちである。
「国民年金保険料収納事業の民間競争入札」によって事業者が決定し、例えば2012年7月に落札したのはオリエントコーポレーション、経理などのアウトソーシングサービスを展開する日立トリプルウィンなど4社だった。
「保険料収納」という事業内容から見れば、未納者に支払いを督促するのが仕事だと誰もが思うだろう。
それが違った。本誌が入手した受注希望業者向けの「民間競争入札実施要項」の中に、鍵を解く文書がある。同要項の「別紙2」は、こう題されている。
〈年金事務所別達成目標等一覧〉
資料には、縦軸に「年金事務所名」がズラリと並び、横軸に目標数値が記されている。そこになんと、「免除等」の目標数値が設定されているのである。
つまりこれは、発注元の日本年金機構が受注する業者に対して「免除申請をこれくらい取ってこい」と指示する文書なのだ。その結果として「見かけの納付率」が上がる仕掛けである。
※週刊ポスト2014年7月11日号