15歳の勝負師、藤沢里菜二段


 秀行名誉棋聖は1925年生まれ。1998年生まれの里菜さんとは73歳差もあり、里菜さんがプロ試験に合格したときには、すでに秀行名誉棋聖は亡くなっていた。

 秀行名誉棋聖のことを、一番弟子の高尾紳路十段(元名人・本因坊)は、「碁に関しては厳しく、ただただ怒られました。褒められたことは生涯で2、3回だけ。しらふだと優しいのですが、いったんお酒が入ると大声をあげ、弟子たちを怒鳴り散らす。酔っていると近寄れませんでした」と回想している。

 里菜さんも検討会などに参加したことはあったものの、「祖父との思い出というほどのものは……。優しくて、酔っ払ったところも見たことありません」。

 しかし棋士どうしは、直接教えを受けなくても、棋譜(碁の手順を記録したもの。音楽の楽譜にあたる)を通して、思いが伝わる。里菜さんは秀行名誉棋聖の碁を並べることで感じ取る。「普通じゃ想像もつかない、ぞくっとする手があって。すごいなあと思いました」。

 洪二段によると、里菜さんの棋風(碁のスタイル)は、着実にポイントをあげていく「地にからい」タイプだという。将来に期待して最初からポイントを稼がず力を貯める「厚い棋風」の秀行名誉棋聖とは正反対だ。

 ところが決勝の碁は、いつもの里菜さんではなく、秀行名誉棋聖が好む「厚い」スタイルの碁を打って勝ちをおさめた。洪二段は「里菜のことを秀行先生が守ってくれている」と感じることが多いという。

 破天荒な秀行名誉棋聖とは似ても似つかぬ里菜さんだが、受け継いだところもある。それは囲碁に対しての一途さだ。

 囲碁は2000年以上も前から打たれているが、いまだ極められていない。コンピュータもアマ高段者レベルで、プロとは歴然とした差がある。それほど「碁の魅力は奥深いところ。やってもやっても突き詰められないからおもしろいのです」と里菜さん。

 今後は、女性棋士前人未踏の「女流棋戦」以外のタイトル獲得を目指してほしい。それだけの実力、可能性は十分ある。きっと、本人も胸の内では目標にしていると思う。

【藤沢里菜/ふじさわ・りな】
1998年9月18日生まれ。埼玉県出身。藤沢秀行名誉棋聖門下。2010年プロ入り(女流棋士特別採用最年少記録)。2013年二段昇段。2014年第1期会津中央病院杯で初タイトル獲得。日本棋院東京本院所属。

●取材・文/内藤由起子(囲碁ライター)
●編集/田中宏季
●撮影/山崎力夫

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