震災当時、東北の被災地3県で約300kmもの防潮堤があった。しかし、1000年に一度といわれる東日本大震災で、その6割が全半壊した。そのため、崩壊した部分に8000億円の国費を投じて、新たに390kmに及ぶ防潮堤を作ろうとしている。
予想された津波は過去、平均して4kmだったが、これを7.5kmにまで引き上げようとしている。
この防潮堤の建設はどうなのか。高い防潮堤のせいで、海が見えない。リアス式の海岸線が美しいのに、これを隠してしまえば観光客は来なくなるだろう。観光地の魅力も半減する。
子どもたちも海が見えなければ、海を好きにならないだろう。海への愛情がなければ、高校卒業と同時に故郷の町を離れて行ってしまうのではないかと、僕は危惧する。
むしろこの8000億円を、それぞれの町に分配し、若者が定住するような住みやすい町を実現するための施策に投じればいいのではないか。お金の使い道の権限は官僚や政治家にあり、自治体に自由に判断させるような制度にはなっていない。
自治体で議論を重ね「防潮堤より人口増加の街づくり」を優先させて、暮らしやすい町にする。
若者がいれば、当然、高齢化社会を支えていける。海岸沿いのいくつかの自治体が連携をして町づくりをしていけば、必ず人は戻ってくる。音楽の流れるカフェや、おいしい魚料理を食べさせるレストランを作り、若者が集えるようにすればいい。
2010年の出生動向基本調査によると、理想の子ども数は、2.42人。未婚女性の理想の子ども数は、2.12人。これを考えると、女性たちが結婚して子供を作るのをあきらめていないことが分かる。
川北町を見倣い、こんな町なら子育てがしたい、と思ってもらえるような町づくりにお金をかけていく必要があるのではないか。復興のためのお金を有効活用して、消滅可能性都市からの脱却に挑戦してほしい。
※週刊ポスト2014年8月8日号