動脈硬化で血管が狭窄した場合の治療として、カテーテルによる内科的治療が広く行なわれている。1990年代、金属製の網状の筒のステントを留置する方法が登場した。低侵襲だが、再狭窄率が約30%と高いのが問題だった。その後、ステントに薬剤を塗った薬剤溶出ステントが開発され、再狭窄率が低下、現在はこれが主流だ。
しかし、金属製ステントは一度入れると、ずっと体内に残るため、血管のしなやかさが損なわれるだけでなく再狭窄の治療が難しい。これを解決するため、日本で生体吸収性ステント開発が行なわれた。
滋賀県立成人病センター循環器内科の小菅邦彦部長に話を聞いた。
「日本人は体内に異物が残ることを嫌います。そこで、当時の循環器内科の故・玉井秀男部長が、京都医療設計代表の伊垣敬二氏に依頼し、生体吸収性ステントの共同開発を始めました。こうして誕生したのがIgaki(イガキ)-Tamai(タマイ)ステントです。1998年に院内倫理審査会の許可を得て、世界で初めて冠動脈狭窄(きょうさく)患者さんに留置する臨床研究を実施しました」
Igaki-Tamaiステントの素材は、ポリL乳酸(PLLA)だ。トウモロコシの澱粉から乳酸を作り、高分子のPLLAを作成する。特殊な編み方で網状の筒を作り、50℃の熱を加えると、自己拡張する形状記憶の性質を持つステントを開発した。狭窄部で広がり、半年から1年ほど血管を内側から支え、その後二酸化炭素と水に分解し、3年目には消滅する。
Igaki-Tamaiステントは、2007年にヨーロッパで下肢閉塞性動脈硬化症用として世界で初めて承認され、一般に使用されている。ようやく今年、国内の施設で閉塞性動脈硬化症に対するIgaki-Tamaiステントの治験がスタート、参加者のエントリーを行なっている。
生体吸収性ステントは、日本がリードしてコンセプトを開発し、その後欧米の企業が続々と開発に乗り出している。冠動脈への生体吸収性ステント承認は、日本ではまだないが、薬剤溶出の生体吸収性ステントも開発されており、将来的には普及すると期待されている。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2014年8月8日号