もちろん、麻布はものすごく勉強のできる優等生でなければ入学できない。でも、ただの優等生ではなく、息子にはもっとたくましく育ってほしい――。たぶん、あの学校説明会に集った親たちには、そういう贅沢な望みを持つ人が多かったのではないかと思う。
贅沢といえば、説明会後の校内施設開放で見学させてもらった図書館の充実ぶりは、予想を上回っていた。約8万3千冊という蔵書数は、それより多い学校図書館もあるとのことだが、質を考えたら日本一ではないだろうか。大学図書館のようにアカデミックであり、プラス遊び心に満ちている。文系理系問わずして、各ジャンルのマニアが喜びそうなディープな本で書棚が埋め尽くされていた。
麻布の図書館の質については、定期購入されている雑誌・新聞の例を挙げたら伝わりやすいかもしれない。文芸方面では、いわゆる文芸誌だけでなく、『ユリイカ』『SFマガジン』『読書人』あたりも押さえていた。スポーツ方面は、『剣道時代』『サッカーマガジンZONE』『スキージャーナル』というように競技ごとのメジャー誌がずらり。乗り物方面も、『鉄道ジャーナル』『世界の艦船』『航空情報』と各マニア必読系が一通り揃っていた。
私が驚いたのは、ジャーナリズム方面だ。『DAYS JAPAN』『Big Issue』『週刊金曜日』ぐらいまでは「へえ」と感心する程度だが、『FACTA』を見つけてびっくりした。これは政財界の裏事情を暴く年間定期購読制の月刊誌なのだ。思わず、近くにいた麻布の先生に、「なぜFACTAなんですか?」と質問したら、「あの雑誌、実はうちの卒業生が関わっておりまして(笑)」と言う。おお、麻布はやっぱり「変」だ。
『「謎」の進学校 麻布の教え』は、そんなこんなの「変」を生み出す麻布の関係者を徹底取材することで、独特な教育システムの全体像をあぶり出し、そこから<我々の社会が共有すべき普遍的な価値>を探し出そうとする。ふざけているようで、根っこはすこぶる真面目な本。一読をお薦めしたい。