「香港黒社会の力は大きい。当然、黒社会のすべてが悪いわけではない。良い人も少なくない。そのままにしておいても良いのではないか」
「黒社会には愛国者も多い。中国人であるという尊厳を持つ者が多い」
トウが語った「愛国者」とはもちろん「中国共産党を愛する者」の意味である。これについて、香港のジャーナリストは「トウ小平発言は、香港マフィアが共産党の指導に従うならば、その存在価値を認め、反中、反共産党を標榜する民主派勢力に対抗させようという意味合いが強い」と指摘する。
マフィア側は中国政府に香港での彼らの存在を認めさせて、返還後も黒社会の活動を継続するとともに、当局の庇護の下、大陸に進出してビジネスを展開しようという下心があった。
このジャーナリストは続けて「恐ろしいことに、いまも中国当局とマフィアは公然と親密な関係を保っている。その端的な例が旺角でのマフィアによる襲撃事件だ」と憤る。その後もマフィアとみられる白マスクのグループは民主派が占拠している金鐘(アドミラルティ)や銅羅湾(コーズウェイベイ)にも出現し、図らずも民主派学生らの排除に乗り出した香港警察を助ける形となった。
香港では今年2月、中国政府に批判的な論陣を張った中立系紙「明報」の編集長が正体不明の2人組の男に刃物で刺され、一時重体に陥った。その後、事件に関わったとして逮捕された8人の容疑者はマフィアに関係があると伝えられている。今後もマフィアが民主派攻撃に加わる可能性も強いことから、学生ら民主派勢力が戦々恐々としている。
※SAPIO2014年12月号