その仕事ぶりが上司に認められ、四川省社会主義学院に推薦され、試験を受け合格。「中国語、中国政治、中国史、中国地理、数学を中心に1991年から2年間、とにかく社会主義思想を徹底的に叩き込まれた」とギャルツェン氏。
その後、再び統一戦線部に戻る。統一戦線部では中国人民解放軍や公安(警察)部、統一戦線部の工作員が直接収集した機密情報の翻訳や編集作業が任されるようになった。
こうした中国の特務工作が世界中で最も進んでいるのは香港だ。大陸からスパイを送り込むのはもちろん、少年、少女時代から共産主義教育を施し、隠れ共産党員にして、香港政庁の幹部として育てれば、香港内のあらゆる情報が中国に筒抜けになる。現在の香港政府のトップ、梁振英・行政長官が隠れ党員というのは、香港ではほとんど常識だ。
経済人もほとんどが中国寄りだ。香港では「スーパーマン」と呼ばれる大富豪、李嘉誠・長江集団会長は党機関紙「人民日報」(電子版)を通じて、繁華街での占拠運動に参加している民主派学生に「自宅に帰れ」と運動放棄を呼びかけているほどだ。李氏ら要人が得た西側の情報はすべて中国に筒抜けと言ってもよい。これも英国植民地時代からの積み重ねの賜物だ。
〈キャルサン・ギャルツェン氏略歴〉1966年9月、中国四川省甘孜チベット族自治州で生まれる。高校卒業後、地元の政府機関に就職。チベット関係の資料の翻訳や会議の通訳に携わる。1999年1月、インドに亡命、チベット亡命政権の研究所に入り、2011年5月から現職。
(インタビュー・構成 相馬勝)
※SAPIO2014年12月号