「麻布ではむしろ大学受験が近づくと授業のレベルを下げるんですよ。また、麻布の中学入試の問題検討会議では、教職員の間で〈「誰がこんな問題作ったんだ」〉という怒号が飛び交い、生徒の好奇心にとことん向き合う先生方の情熱が実に印象的でした。

 ただ最近は親たちの希望が現役合格の実績に傾き、入口(偏差値)と出口(大学合格者数)ばかり重視する。それでも真ん中、つまり教育の中身に惚れる人が麻布を選び、最も多感な6年の過ごし方を費用対効果で決めていいのか、結局問われているのは親や我々の“教育観”だと思います」

 理想の教育と大学合格数という現実があるとすれば、〈二兎を追う〉のが麻布だ。氷上信廣前校長は学校運営を〈山の稜線を歩くようなもの〉と喩え、片方だけに転んでは元も子もないのだ。

「理想とは要するに、〈自由に生きよ〉ということです。僕なんか自分が教わってきた学校で『人に迷惑をかけるな』としか言われなかったけど、迷惑かけていい、むしろかけた時にどうするかを麻布では考えさせる。かと思うと『自由すぎるのが欠点』と冷静に言う子もいるのが麻布です」

 本書の後半には1970年代に教員・生徒側と理事長側が衝突し、〈自治の誇り〉を獲得した学園紛争の歴史も綴られ、自由とは何かを校長以下が共に考え、一から議論するフラットな関係が印象的だ。正解は誰かから下されるものではなく、そもそもないかもしれない。だからこそ教員も生徒もなく共に悩み、「謎を謎として」抱え続けた時間が、後々無二の財産や教えとなるのだろう。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン