ライフ

大阪の縁切り寺住職「親が子供との縁を切ることは認めない」

 2011年、「絆」という字が「今年の漢字」に選ばれたのは記憶に新しいところだが、一方で悪縁との縁切りを神仏に祈るそうしたご利益のある寺社には参拝客が途絶えることがない。大阪市天王寺区にある鎌八幡には、こぢんまりした境内に鎮座する巨大な榎に注連縄が張られ、太い幹に夥しい数の鎌がびっしりと突き刺さっている。木漏れ日が織りなす陰翳と相まって、境内にはおどろおどろしく、霊的な雰囲気が漂う。

 無数の鎌は、縁切りを祈願するものだ。1614年の大坂冬の陣で豊臣方の武将・真田幸村がこの榎を「鎌八幡大菩薩」と奉り、鎌を突き刺して戦勝を祈願、大いに戦果をあげた。そして江戸以降、鎌八幡信仰と加持祈祷が結びつき、悪縁断ちの信仰が広まった。榎は太平洋戦争で損傷したが、残った根から出た新芽が蘇生して、現在に至る。

 御神木の正面に掲げられた絵馬を見ると、《父と親子の縁を切れるようにお願いします》《長男●●の公正証書が実行されることなく解消できますように》《父の親族、兄弟姉妹らにこれ以上金品がうばわれることのないように》と親子、親族との縁切りを祈願する内容が目についた。どの絵馬も思いを刻み込むように黒マジックで一文字一文字、丹念に書かれている。鎌八幡の杉山契光住職が言う。

「病根断や男女の縁切りだけでなく、身内との縁切りを望む方も結構います。親を殴って年金を奪う息子や、何度も『これが最後』と言いつつ、息子の勤め先や嫁の実家に押しかけ無心する親と縁を切りたいという切実な願いです」

 あるケースでは、兄弟の一人が両親の死後働かず、遺産を食い潰して他の兄弟にカネをせびるようになった。カネを要求された兄弟は「我慢していたが子供の世代にまで無心を始めてもう限界。私たちも年老いたので生前に縁を切りたい」と申し出た。また、自分勝手な実母が原因で激しい夫婦喧嘩を繰り返してきた娘が「いい加減疲れた。いっそ母と縁を切りたい」と訪れたこともある。

 あまりの生々しさに言葉を失う記者に対し、住職は「すべての縁切りを認めるわけではない」と語りかける。

「子供が親との縁切りをするのは認めるが、親が子供との縁を切ることは認めません。子供を育てた親には責任がある。寺にも縁切り祈祷をする責任があるので一線を引いています」

※SAPIO2015年1月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン