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日本経済の根本的な問題は「低欲望社会」にあると大前研一氏

 安倍晋三首相は「景気回復、この道しかない」と主張し続けて総選挙を押し切った。しかし、アベノミクスには本質的な誤りがあると大前研一氏はいう。日本経済が直面している根本的な問題について、大前氏が解説する。

 * * *
 アベノミクスは、なぜダメなのか? ひと言で言えば、いま日本経済が直面している根本的な問題を理解していないからである。

 とりわけ、アベノミクスを主導してきた安倍首相の経済政策ブレーンで内閣官房参与の浜田宏一・米エール大学名誉教授と本田悦朗・静岡県立大学教授、“アベノミクスの仕掛け人”とされる自民党の山本幸三衆議院議員らの罪は重い。

 浜田氏らは、日銀による異次元金融緩和の後に円安・株高になると、それをアベノミクスの成果として「日本経済の復活に自信を持っていい」と喧伝した。しかし、金融・財政政策だけでは思うように景気が良くならないとみるや、消費税率引き上げに反対する立場を強調。さらに浜田氏と本田氏は、わざわざノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン米プリンストン大学教授を安倍首相に引き合わせ、再増税延期の必要性を進言させた。

 だが、異次元金融緩和で市場をお金でジャブジャブにすれば、円安になるのは道理である。その結果、インフレ傾向にもなる。しかし、物価上昇に賃金が追いつかない現状では実質所得が下がるから、消費低迷を招いて悪循環に陥った。

 浜田氏や本田氏は、現在の消費低迷の引き金を引いたのはアベノミクスなのに、風向きが悪くなってきたら、それを棚に上げてしまった。

 その一方で日銀は、なんとか景気を上向かせようと「黒田バズーカ2」を断行したが、これはいわば低血圧を治療したら予想以上に血管が収縮し、かえって血のめぐりが悪くなったため、慌てて心臓マッサージを始めたようなものである。

 だがそれは、本来取り組むべき治療ではない。

 日本経済の根本的な問題は「低欲望社会」にある。個人は1600兆円の金融資産、企業は320兆円の内部留保を持っているのに、それを全く使おうとしないのである。そういう国は、未だかつて世界に例がない。貸出金利が1%を下回っても借りる人がいない。史上最低の1.56%の35年固定金利でも住宅ローンを申請する人が増えていない。世界が経験したことのない経済だ。

 したがって、金融政策や財政出動によって景気を刺激するという20世紀のマクロ経済学の処方箋は、今の日本には通用しなくなっている。このことをクルーグマン氏や、アメリカの経済学説の“輸入学者”である浜田氏らは全く理解していないのである。

※週刊ポスト2015年1月1・9日号

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