厚生労働省は今年9月1日から、夜間や休日に電話で無料の労働相談を受け付ける「労働条件相談ほっとライン」を開設。ブラック企業対策に躍起だが、一方ではそのバイト版である“ブラックバイト”なるものの存在も取り沙汰されている。飲食店で働いていた学生がバイトを辞めたところ、賠償を請求された場合、支払わなくてはいけないのだろうか。弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
大学生の息子が飲食店で10時間以上も働いていました。そのため学業に支障が出てきたので、私が強制的に辞めさせました。しかし、その店から息子が辞めたせいで売り上げ上で50万円の損害が出たとの通達が届き、賠償を求めると主張してきたのです。この場合、どのように対処すればよいですか。
【回答】
雇用契約は合意による退職で終了するほか、一方的な終了があります。使用者側からの一方的な終了が解雇であり、従業員からのそれは辞職です。解雇は労働基準法や労働契約法で制限されますが、辞職には民法が適用されます。
期間の定めがない雇用契約の場合、退職の意思表示後2週間で雇用関係が終了します。期限の定めがある場合は、やむを得ない事由があれば終了できますが、その事由が労働者の過失で生じてしまうと、使用者側の損害の賠償責任があります。
以上から息子さんの雇用契約に期間の定めがなければ、退職の通知から2週間で労働義務はなくなります。雇用期限の定めがある場合には、学業に支障が出て辞職せざるを得ないほどの残業を強いられたことが、やむを得ない事由といえるかですが、学生アルバイトを前提の雇用契約であれば、当然この事由に該当すると思います。
次に、その事由の発生が息子さんの過失によるかですが、残業に関する三六協定があって残業命令ができるとしても、労働時間は労働者の健康的・文化的な生活のため制限されており、残業は例外的でなければなりません。人手不十分で、恒常的な残業命令というのでは使用者の労務政策に欠陥があり、その結果、残業に耐えられなくなった息子さんの過失によるとはいえないでしょう。したがって損害賠償義務はないと思います。
なお期限の定めがない場合で、2週間経過前に辞めた結果、人手がつかない場合などは損害賠償の言い分を無視できません。しかし、こうした過酷な労働を強いる使用者は残業手当の支給等にも問題がある可能性がありますし、労務政策上の過失もあります。高額の賠償請求は極めて疑問です。個別労働紛争として、各都道府県の労働局長に相談してください。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年12月26日号