「三陸を大津波が襲い、福島で原発事故が起きた大変な時代に、『東京物語』もないだろう。そういって山田洋次監督に断ったんだ。大体、日本はおかしいよ。これだけ重大な災害に遭っても、自殺者が毎年3万人以上出る格差社会になっても、若者のデモも起きない」
こんな言葉も文太さんらしかった。
「本当は俺たち年寄りが、老骨に鞭打って立ち上がらなきゃいかんのじゃないか。でも俺ももう80近い。ほとんど両足棺桶に突っ込んでいる状態で、どこまでできるやら思案六法ってとこなんだ」
この言葉を聞いたとき、「仁義なき戦い」で一本気な広島ヤクザを演じた広能昌三役と並んで、菅原氏の代表作となったNHK大河ドラマ「獅子の時代」で会津藩の下級武士として賊軍の一員となり、下北半島の斗南(となみ)藩まで流される平沼銑次(せんじ)役の印象が重なった。東北出身というせいもあってか、菅原氏には官軍に対抗して敗れた奥羽越列藩同盟の志士の末裔のイメージがあった。
とりわけ3.11以降の脱原発などの社会的発言は、鮮烈だった。同じ任?映画出身の高倉健が終生、寡黙を通しただけにその言動にはなおさら唐突感があった。
安倍内閣が強行した集団的自衛権や特定秘密保護法の施行に関しても、菅原氏は積極的に反対発言を続けた。それはさながら政府に挑む「朝敵」のようだった。
※SAPIO2015年2月号