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【書評】『バカになったか、日本人』は日本人への最後の通牒

【書評】『バカになったか、日本人』橋本治/集英社/1400円+税

【評者】香山リカ(精神科医)

「この本は『東日本大震災から憲法改正まで』を論じる本」と著者はあとがきで言う。たしかに大震災当日の著者自身の経験から始まるこのコラム集で取り上げられるテーマは、原発、選挙、集団的自衛権、アベノミクスなどと政治経済寄りになっている。しかし、それは著者自身の意図ではなく「私と関係ないところでそういう動きが起こっているから」であり、そこでのスタンスは「一貫して『なんで?』」だと述べる。

 著者には、いま社会で起きていることすべてが不思議に見える。なぜ最悪の原発事故を起こした国の首相が海外で原発のセールスをするのに対して、批判の声がほとんど聞かれないのか。なぜ格差が拡大し非正規雇用労働者の数が増えているのに、日本ではあまり大規模なデモが起きないのか。なぜ政治家が「『解散した、選挙に負けなかった、私は信任された』の三段論法で好き勝手なこと」をやるのか。素朴にして本質的な「なんで?」の問いを繰り返すうち、著者は次のような答えに到達する。

「いつの間にか『民主主義を野放しにしてしまうと、まとまるものもまとまらなくなってしまう』という状況になってしまっているようだ。ひどい言い方をすれば、『民主主義の結果、日本人はバカばっかりだ』という考え方が知らない間に一般化して、政治家が『私たちに任せておけばいいのです。あなたたちは、私たちを支持していればいいのです』と囁きかけるようになってしまった。」

 著者はさらにこの背景に、テレビの「おバカブーム」が生み出した「『バカでもいいんだ』という知能の空白状態」や「『バカな人間』を顧客として抱え」て上昇志向を刺激するビジネスを見ようとする。

 その結果、今や日本人の関心は「景気回復」のみに集中し、内閣を批判するだけで「あなたは景気回復を望まないのか?」と問われ、原発や憲法の話がしにくい雰囲気ができ上がる。「バカになったか」という刺激的なタイトルは心やさしい著者の最後通牒だ。それでも私たちは沈黙を続けるのか。

※週刊ポスト2015年2月6日号

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