――これから買おう、借りようという人たちはどんなところに注意を払うのでしょうか?
井上:本当に大丈夫な物件かどうかは大変な問題で、つてがないと調べる方法はありません。自分できいてまわるしかない。不動産屋や売主が提供する情報が、本当かどうかはわかりませんからね。内覧しただけでもわからないから、人にきくしかない。そこが面白くてね。中国人は見ているものを信じないんです。だから、詐欺で一番多いのは、周りの人間にきいて信用したというパターンです。
南京盟信というニセ銀行を1年で200人が利用し、合計2億元(約38億円)もの金を集めていた詐欺事件がありましたね。あれも、まわりの人間が「金利がいい銀行があるよ」と言うのを信用してお金を預けちゃったんですよ。
――身近な人の話は、胡散臭くても信用してしまう。皮肉な話ですね。
井上:もうひとつ、逆に信用しているものがあるんです。政府が熱心に言うことは、きっと逆のことが起きると信じているところがあります。
昨年暮れに、深センで年間10万件までという自家用車の購入制限が始まりました。直前まで政府は「購入制限はしない」とアナウンスし、制限が始まるだろうから今のうちに車を買ったほうがいいですよ、と広告を出したディーラーが逮捕されたりしました。そこまでして否定したのに、購入制限は開始された。こういったことが続くから「政府がわざわざ否定することは現実になる」という、ややこしいリテラシーが発達するわけですよ。
――口コミや知人のつてをたよって情報を集め、無事に引っ越しとなったとき、引っ越し業者はどんな仕事ぶりでしたか?
井上:深センの引っ越しは、すごく安い。知人が引越しを頼んだとき、10畳の部屋が2つ埋まるくらいの荷物がありましたが、それをすべて運ぶのに10万円かかりませんでした。日本だったら100万円はかかる。人件費がとんでもなく安いからでしょう。引っ越し費用は安いですが、すごく雑に運ばれます。家具をクレーンで吊り上げるときもワイヤー1本だけでぶらーんと吊っていました。
きちんと運んでもらいたい人は、高くなりますが日本など外資系の引っ越し業者に頼んでいます。普通はそういうことはしないので、たいてい何かがぶっ壊れてひどい目にあう。私の場合は、机の支柱が折れていました。なんでこんなところが折れるのか、わからないですね。もちろん補償はありませんでしたよ。
■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊は『中国嫁日記』4巻(KADOKAWA エンターブレイン)。