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残業代ゼロ社会に向かう政府 年収300万円でもカット対象に

2015.03.13 07:00

 いわゆる“残業代ゼロ”の制度設計を検討してきた厚生労働省の審議会が「法律案要綱」を厚生労働大臣に答申した(3月2日)。法案は今国会に提出され、成立すれば2016年4月に施行される。

 どうせ年収が高くて専門職の人たちが対象でしょ?――。サラリーマンの間からはこんな声も聞こえてくるが、「自分には関係ないと思ったら大間違い」と警告するのは、3月18日に著書『2016年残業代がゼロになる 政府・財界が進める「正社員消滅計画」のすべて』(光文社)を発売する人事ジャーナリストの溝上憲文氏だ。

 * * *
 政府が「高度プロフェッショナル制度」と呼ぶこの制度は、管理職以外の一定のホワイトカラーのサラリーマンを労働時間規制の適用除外にするもの。つまり、時間外、深夜・休日の残業代を一切支払わなくてもよいとする制度で、どこから見ても経営者が得をして、サラリーマンが損をする仕組みだ。

 最大の関心は誰が対象になるかである。具体的な対象者は「法律案要綱のポイント」(厚労省)では「高度の専門的知識等を必要とし、職務の範囲が明確で一定の年収要件(少なくとも1000万円以上)を満たす労働者」となっている。つまり、年収要件と業務・職種要件の2つがある。

 年収は「平均給与額の3倍を相当程度上回る」ことが法律に書き込まれ、具体的金額は法律より格下の省令で「1075万円以上」にする予定になっている。

 最もわかりにくいのは業務要件の「高度の専門的知識等を要する業務」だ。具体的な業務はこれまた省令で決めることになっている。審議会の報告書では例示として、金融商品開発、ディーリング、アナリストの業務を挙げているが、金融に限らず、あらゆる業界・企業には専門的知識が必要な業務はたくさんある。

 特定の業務に絞り込むことは難しいが、たとえ限定しても、法改正することなく政府の意向で随時変更できる「省令」で追加していけばよいだけの話だ。

 そうなると最大の要件は年収1000万円以上だ。これに関して厚労省の幹部は「最終的な基準は年収要件が歯止めになる」と言っている。

 じつは大手企業の45歳以上の中高年非管理職の中には年収1000万円以上もらっている人も珍しくない。特に管理職ポストが少なくなる中で、高年収の非管理職が増えている。部下なしのいわゆる「名ばかり管理職」も多いが、厳密には残業代を支払わなくてはいけない人たちが増えているのだ。

 政府系シンクタンクの主任研究員は、「経済界の当面の狙いは大手企業の中高年社員。たいして成果も出せないのに給与も高く、残業代まで支払うのはおかしい、と怒っている経営者も少なくない。しかも名ばかり管理職だった人が退職後、未払い残業代の支払いを求める訴訟も増えている」と指摘する。

 もちろん最終的な狙いはそれにとどまらない。制度の導入を長年主張し続けてきた経団連の榊原定征会長は「全労働者の10%程度を対象にしてほしい」と記者会見で広言している。10%といえば500万人に相当する。2005年に出した経団連の提言ではもともと対象者を「400万円以上」にするように要望していた経緯もある。

 だが、その提言を踏まえた法案は第一次安倍政権下で世論の総反発を受けて廃案になった。もちろん、政府・経済界も同じ轍は踏みたくないだろう。年収要件が「1000万円以上」に落ち着いたのは、とりあえず制度を導入し“小さく産んで大きく育てる”(年収要件のひき下げ)ことを狙っているのは間違いない。

 しかも政権与党が圧倒的多数を誇る国会での法改正は容易だ。ちなみに法律に明記される「平均給与額の3倍」は厚労省が使う指標で計算すると936万円。法改正で「3倍」の数字を「2」に変えるだけで624万円になる。中所得層のサラリーマンのほとんどが対象になる。

 いわゆる“残業代ゼロ”の制度設計を検討してきた厚生労働省の審議会が「法律案要綱」を厚生労働大臣に答申した(3月2日)。法案は今国会に提出され、成立すれば2016年4月に施行される。

 どうせ年収が高くて専門職の人たちが対象でしょ?――。サラリーマンの間からはこんな声も聞こえてくるが、「自分には関係ないと思ったら大間違い」と警告するのは、3月18日に著書『2016年残業代がゼロになる 政府・財界が進める「正社員消滅計画」のすべて』(光文社)を発売する人事ジャーナリストの溝上憲文氏だ。

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 政府が「高度プロフェッショナル制度」と呼ぶこの制度は、管理職以外の一定のホワイトカラーのサラリーマンを労働時間規制の適用除外にするもの。つまり、時間外、深夜・休日の残業代を一切支払わなくてもよいとする制度で、どこから見ても経営者が得をして、サラリーマンが損をする仕組みだ。

 最大の関心は誰が対象になるかである。具体的な対象者は「法律案要綱のポイント」(厚労省)では「高度の専門的知識等を必要とし、職務の範囲が明確で一定の年収要件(少なくとも1000万円以上)を満たす労働者」となっている。つまり、年収要件と業務・職種要件の2つがある。

 年収は「平均給与額の3倍を相当程度上回る」ことが法律に書き込まれ、具体的金額は法律より格下の省令で「1075万円以上」にする予定になっている。

 最もわかりにくいのは業務要件の「高度の専門的知識等を要する業務」だ。具体的な業務はこれまた省令で決めることになっている。審議会の報告書では例示として、金融商品開発、ディーリング、アナリストの業務を挙げているが、金融に限らず、あらゆる業界・企業には専門的知識が必要な業務はたくさんある。

 特定の業務に絞り込むことは難しいが、たとえ限定しても、法改正することなく政府の意向で随時変更できる「省令」で追加していけばよいだけの話だ。

 そうなると最大の要件は年収1000万円以上だ。これに関して厚労省の幹部は「最終的な基準は年収要件が歯止めになる」と言っている。

 じつは大手企業の45歳以上の中高年非管理職の中には年収1000万円以上もらっている人も珍しくない。特に管理職ポストが少なくなる中で、高年収の非管理職が増えている。部下なしのいわゆる「名ばかり管理職」も多いが、厳密には残業代を支払わなくてはいけない人たちが増えているのだ。

 政府系シンクタンクの主任研究員は、「経済界の当面の狙いは大手企業の中高年社員。たいして成果も出せないのに給与も高く、残業代まで支払うのはおかしい、と怒っている経営者も少なくない。しかも名ばかり管理職だった人が退職後、未払い残業代の支払いを求める訴訟も増えている」と指摘する。

 もちろん最終的な狙いはそれにとどまらない。制度の導入を長年主張し続けてきた経団連の榊原定征会長は「全労働者の10%程度を対象にしてほしい」と記者会見で広言している。10%といえば500万人に相当する。2005年に出した経団連の提言ではもともと対象者を「400万円以上」にするように要望していた経緯もある。

 だが、その提言を踏まえた法案は第一次安倍政権下で世論の総反発を受けて廃案になった。もちろん、政府・経済界も同じ轍は踏みたくないだろう。年収要件が「1000万円以上」に落ち着いたのは、とりあえず制度を導入し“小さく産んで大きく育てる”(年収要件のひき下げ)ことを狙っているのは間違いない。

 しかも政権与党が圧倒的多数を誇る国会での法改正は容易だ。ちなみに法律に明記される「平均給与額の3倍」は厚労省が使う指標で計算すると936万円。法改正で「3倍」の数字を「2」に変えるだけで624万円になる。中所得層のサラリーマンのほとんどが対象になる。

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