入学試験に落ちたり、就職活動がうまくいかなかったり、入社した会社でミスを連発したり…我が子が落ち込み、悩んでいるとき、母親はいったいどんな言葉をかければいいのだろうか。2男1女の母であり、1997年には『バッテリー』(教育画劇)で野間児童文芸賞を受賞した、あさのあつこさんに聞いた。
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子供が何かに失敗して本当につらいときには、大人からの言葉をあまり期待していないんじゃないでしょうか。だから下手に言葉をかけて慰めたり励ましたりするより、落ち込んでいるときは黙ってそばで見守ってあげることが大事なのだと思います。
苦しくてつらいときにそっとしてほしいと思うのは、大人も子供も同じです。沈黙のほうが大事なときだってあるんです。
受験や就職などで壁にぶつかりそれを越えられなかったときのショックは本人にしかわからない。子供の失敗は親にとってもショックだけれど、子供がどれだけショックを受けているかは理解できません。親が理解しているつもりでもできていないことはたくさんあります。
すごく落ち込んでいてもそれを顔に出さず、平気を装っている子もいるんです。人と人との励まし合いってそんなに単純なものではない。
だからたとえ親子であっても、子供自身の出来事に介入して元通りに元気にさせるというのはなかなか難しいと思います。「こんなことでグジグジしてどうするの」、「たいしたことじゃないから大丈夫よ」なんて言葉はもってのほかです。
また、子供はこれからの長い人生の中で、それ以上の挫折や苦しみをたくさん味わうことでしょう。今直面している失敗は、山あり谷ありの長い人生の第一歩として子供が受け止めるしかありません。だから親は、子供が立ち上がるのを黙って見守ってやるしかないんです。
直接的な励ましの言葉や、心配する言葉をかけるのではなくて、「お風呂が沸いているから入りなさい」とか「温かい食事があるよ」と声をかけ、おいしいおみそ汁をそっと出してあげる。
私たち大人だって温かいお風呂やおみそ汁で少し元気がでますよね。そうした日常のコミュニケーションを大切にすることで、子供に「どんな失敗をしてもあなたにはごく普通の日常がちゃんとあるんだよ」ということを伝えることがいちばんだと思います。
そのうえで子供が起きた出来事を自分で受け止め、少し元気になってきたときに声をかけるとしたら「人生の主役はいつもあなたなんだ」という言葉です。自分の人生は自分自身で決めて切り開くしかない。失敗があってもあきらめて周囲に流されたり、他人任せにするような“脇役”にならず、主役として人生を堂々と演じてほしい。
ただし、言葉の受け止め方は本当に個人差があるので、どの子にも響くわけではないのが難しいところですね。
※女性セブン2015年4月2日号