そんな女たちのお喋りを聞くともなく聞く若菜には、クラスの4人組とは別格の〈高橋さん〉という友人がいた。孤高の図書委員として一目置かれるその〈文学少女キャラ〉が、〈付和雷同型〉の若菜には新鮮に映り、ある時〈本、読みたいんですけど〉と声をかけてみた。
〈読めば?〉と、クールな高橋さんは、なぜか図書室の本ではなく古本で買った『人間失格』を貸してくれ、以来若菜を作中人物に準(なぞら)えて〈竹一〉と呼んだ。一方若菜は若菜で手記を書き始めるが、太宰風に〈うっかりした生涯を送ってきました〉と書き出したものの、思いつくのは地元にできた〈激安の殿堂〉に出かけた時のことくらい。
コスメに夢中な祖母、初スタバでうまく注文できた時の母の得意げな顔……。〈じゃなくて〉と、自分に突っ込み入れながら溜息をつく若菜が、〈いや、逆にそういうことなのかもしれない〉と思い直す冒頭のシーンがいい。
「これから始まるのは些末なお話です、とさりげなく冒頭に表明しておこうかなって。でも現実の日常なんて取るに足らないことの積み重ね。そんなに感動的な事件ばかり起きても逆に困るし、私はいいストーリーだと思いますけど~(笑い)」
ちなみに1章「家出してみよう」から「遠くをながめてみよう」まで、章題は全て“みよう”揃え。その間、若菜は高橋さんとバイトを始めたり、初恋を応援してみたり、全て「try to」だ。
「結果はどうあれ○○してみようっていう、ピンポンパン的な陽気なノリですね。それは若菜たちにしがらみがないからできることで、若さというより自由なんだと思う。とはいえあんまり自由過ぎても現実味がないし、今回は親の別居という形で現代的な影も少しつけた。
ただ子供って万能感みたいな感覚があるでしょ。自分がイイ子じゃなかったから親が離婚したとか、落ち込む半面、一種の思い上がりのような……。実際はほとんどが大人側の事情で、しかも結構勝手で下らない事情なんだよ~って、思える話にしたかったんです」
〈どうあがいても一般大衆だと気づいたときの絶望から這い上がるために編み出したのが文学少女キャラ。できるだけカリカチュアライズして、似非インテリを嗤いたかったの〉と明かす、高橋さんの少々空回りした正直さが素敵だ。