国内

「夫婦別姓の主張が進歩的と思ったら大間違い」と小谷野敦氏

 「夫婦別姓」は、働く女性にとっては便利な点もある。何しろ、これまでと同様の名前で仕事ができる利点は多い。比較文学者の小谷野敦氏が、「夫婦別姓を訴える女」について言及した。

 * * *
 野田聖子が夫婦別姓法を主張していたのは、自分が野田の姓を残したかったからだというのは、もう分かりきったことだ。つまり夫婦別姓を主張する者の中には、進歩的どころか保守、家名を残したいという思惑の者が少なからずいるはずだが、このことは奇妙なほどに議論されない。

 もし子供が生まれないのであれば、夫婦別姓など何の問題もない。別姓法案では、子供の姓は最初に決めておくとなっていたりするが、その取り決めはどの程度の拘束力を持つのか。決めたことは後で変えられる。夫婦別姓になどしたら、いざ子供ができた時に、自分の姓にしたいという妻が裁判所に訴えを起こすだろう。

 夫婦別姓などというのは先進国では日本だけだ、などと言っている人は、その夫婦別姓の先進国で、子供の姓がどうなっているのかよく調べたほうがいい。だいたいヒラリー・クリントンは夫の姓を名のっているではないか。間に「ローダム」と旧姓が入っていても、子供の姓はクリントンである。駐日米国大使キャロライン・ケネディは旧姓だが、子供の姓は夫のシュロスバーグである。

「横山安田」などという複合姓を、進歩的なつもりで使っている人がいるが、その子供が結婚する時にはどうなるのか。姓は複合されて倍々で長くなっていく。まるで落語だ。高市早苗は、戸籍では夫婦同姓、通称として旧姓使用の立場だが、自分は夫と自分の二つの墓にお参りしているなどと書いて馬脚を現した。では子供の代では四つ、孫の代では八つの墓に参るのか。

 もちろん、これに反論することはできるだろう。私は家名の存続など考えていないし、子供の姓は夫のものでいい、という女性もいるだろう。それにしては、野田聖子が五十歳で子供を産んだあとあたりから、とんと議論がなくなってしまった。往年の、宮崎哲弥・八木秀次編の『夫婦別姓大論破!』なども、絶版になり、最近では読まれていないだろう。

 では夫婦別姓派は負けを認めたのかというと、そうでもなく、ちょいちょい出現して、「夫婦同姓なんて日本だけ」とか、まるでピンポンダッシュのように言うだけ言って逃げたりする。だいたい、西洋諸国には戸籍制度がないから、重婚だって可能なわけだが、戸籍制度は日本の陋習だから廃止せよ、という声もあがらない。
 
 結局、二十年くすぶったあげく、夫婦別姓論など下火になってしまったということかもしれないが、それこそ「議論を尽くせ」などと言うのが好きな政治家たちが、表面的にはちっとも議論を尽くさないまま、なし崩しになっているのは、日本の言論の不健康さを表していると言うほかない。

※SAPIO2015年4月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン